魔王に甘いくちづけを【完】

「・・・それは命令ですか」


その質問に、またまたむっとしてしまう。

命令、きくつもりあるのかしら。

貴方は性格が悪い上にとっても非常識な方ね。

さっきは全くもって全然きいてくれなかったくせに、今、そんな風に聞くなんて。

私から小瓶を取り上げて、私が守ると自信たっぷりに言ったのだから、弱い者の命を守ることくらい簡単に出来るでしょう。



「命令です。貴方でも、それくらいはきけるでしょう?」

「それくらい、ですか。簡単に仰いますね―――――それは、少々・・難しい注文です・・・っ、くっ―――」

「ぴいぃぃっ」


バサバサバサという羽音が近付いたと感じるのと同時に、アリの体が少しだけ傾いた。

その仕草を見て、ちょっぴり心配になる。

怪我をしたのかしら・・・。



「どうかしたの?」

「っ・・・何でも、御座いません。貴女様は、出てはなりません」


良かった、何ともないみたい。だけど・・・。

アリの体がじり、じり、と後ろに下がってくるから、一緒になって後ろに下がる。


・・・どうして下がって来るのかしら。

すぐ後ろに、壁が迫ってきてる。これ以上は下がれそうにない。


囲うように出されてる腕に触れないよう注意しながら、大きな体を避けてこっそり向こうを覗き見てみると、白フクロウはベッドの天蓋の柵に止まっていて、ガラス玉の瞳は真っ直ぐにアリを見つめていた。


あの子は動いてないのに、あんなに大人しそうなのに、どうして下がってくるの?


「退いて下さい。あの子は大人しいじゃない」

「・・・先程威嚇されました。油断できません。それに、あの白フクロウは―――――・・・いえ、やめておきましょう」



随分含みのある言い方をする。

もしかして、ただの白フクロウじゃないってこと?

綿毛みたいなふわふわの体、ガラス玉の綺麗な瞳。

私にとっては、どう見ても大人しくて綺麗な鳥さんでしかない。



「・・・威嚇って、貴方が敵対心を持ってるからでしょう。きっと、怖がってるのよ。そうやって睨むのを辞めてみたらいいわ。・・・・それよりも、暗くなってきました。そろそろ灯りをつけて欲しいんですけど」

「灯り・・・?」



ぴくんと背中が動いて、頭は窓の向こうに向けられた。

もうこんな時刻か、と言ってるのが聞こえる。

外はもう、日が落ち始めていた。

このままだと、部屋の中がどんどん暗くなっていく。

部屋の灯りを点すのは侍女の仕事で、室長もいない今はアリがすべきこととなる。

目の前の背中がくるっと反転して、例の冷淡な瞳が見下ろしてきた。



「私に・・・?」