魔王に甘いくちづけを【完】

――――チッ!―――

急に、目の前が暗くなった。

突然現れた何かに視界を塞がれていて、前が全く見えない。

これは―――?


「・・・油断しました。そのまま動かず後ろに。いいですね―――」


壁のようだと感じたそれは、盛大な舌打ちと共にやって来たアリの広い背中。

例のごとく足音もしないまま。

しかも、何もなかった空間に突然ぱっと現れるなんて、まったく理解が出来ない。


「貴方、今、走ってきたの?」

「―――・・・それについては秘密事項ですので、お教えできません」



バサバサという羽音だけが耳に届いてくる。

抜けた白い羽が一枚だけ、ひらひらと舞ってるのが隙間から見えた。

白フクロウさんは時々鳴き声を上げてる。

部屋の中を飛び回ってるみたい。

とまる場所を、さがしてるのかしら。

目の前にいる体は微動だにしないけど、庇うように廻された腕だけが、たまにピクンと動く。


―――今、どうなってるの?・・・。


アリの様子、上向きの頭がすーと左右に移動している。

どうも天井近くを飛び回っているよう。

部屋の中は狭いもの、このままだとどこかにぶつかってしまうわ。



「あの白フクロウさんは、危険じゃないと思うわ。だから・・・」

「・・・退けと言うのですか。貴女様には警戒心というものがないのですか。確かに、あの鳥からは邪気は感じませんが・・・」



―――警戒心―――


広い背中をじろっと睨みつける。

この方は、さっき自分がしたことをもう忘れてしまったのかしら。


「それでしたら、貴方に対してたっぷりと持っていますから、心配しないで下さい」

「・・・それは、大変結構なことです。そのままお忘れなきようお願い致します」



そうよ、絶対に忘れないわ。

今だって。

急にこの体が振り返って、いつ、腕が伸びてくるか分からないんだから。

これでも、いつでも逃げられるように身構えてるんだから。

この方の尋常じゃない素早さには、とても勝てると思えないけど、十分に、警戒はしてるつもり。


確かに、退いて欲しくて堪らない。

出来るなら部屋から出ていって欲しい。

けれど今は、そうじゃなくて―――




「・・・だから、貴方と違ってあの子はただの白フクロウさんで、弱い生きものだわ。絶対に傷つけたらダメです。無傷で外に返して。決して攻撃しないで」



あの子は、警戒するような相手じゃないと思うわ。

あんなに小さな体なんだもの、貴方たち狼の爪で攻撃されたら、ひとたまりもないはず。