魔王に甘いくちづけを【完】

「あぁ、そうだ。ここは、小さいが良い街だ・・・よし、行くぞヴィーラ」



ラヴルが声を掛けると、再び方向転換をして、ヴィーラは水面が続く空を飛んでいく。

風のように早く、後ろにあった街があっという間に見えなくなった。

どれ程飛んでいただろうか、やがて、進む先に小さな島が見えてきた。


こんもりとした森の一角に小さな灯りが見える。


ヴィーラがそこに近づいていくと、小さめな屋敷がそこにあるのが分かった。

そこから眼鏡をかけた白髪の男性が一人と赤毛の若い娘が一人出てきた。


ヴィーラが大きな羽根をふわふわと羽ばたかせ、少し開けた場所にゆっくり着地した。




「ヴィーラ、ご苦労様。ユリア、降りるぞ」



ラヴルは乗った時と同じ様に抱きかかえたまま、いとも簡単に飛び降りる。

そのまま白髪の男性の前にいくと、ストンと下に降ろした。



「カルティス、此方はユリアだ。連絡した通り、準備は出来ているか」


「はい、ラヴル様、もちろんで御座います。はじめましてユリア様。カルティスで御座います。コレは孫のリリィで―――ほら、ご挨拶を」


「お初にお目にかかります。リリィと申します。ラヴル様にはいつもお世話になっています」



リリィは赤毛の髪をふんわりと揺らし、ぺこりと頭を下げた。



「ユリア様は初めてのヴィーラ飛行で御座いましょう?お疲れのことと思い、湯を用意して御座います。さぁ、どうぞこちらへ」



カルティスに案内されるまま、ユリアは屋敷の中に入って行った。

その背中を見送り、リリィはラヴルの顔を見上げた。



「ラヴル様、もしかしてユリア様は人間ですか?」


「あぁ、そうだ―――リリィ、いいか?食べてはいかんぞ?」


「そんな!ラヴル様のお連れ様を食べるだなんて・・・そんなこと出来ません!」



リリィは悪戯こく笑うラヴルを軽く睨んで、ぷぅっと頬を膨らませた。

しかし内心では、ユリアの放つ何とも言えない甘い香りにとても揺らいでいた。

体から漂う甘い香りはとても美味しそうで、お腹が空いていたらやばいかもしれない・・・。

女の私がこうなんだから、おじい様は大丈夫なのかしら。


リリィは心配そうに二人の消えた屋敷の入口を見つめた。


その心の内を感じた取ったのか、ラヴルは言った。



「リリィ、カルティスなら平気だ。そうでなければ、わざわざここに連れて来ない。それにリリィも、な・・・?」



大きな掌が柔らかな赤毛のてっぺんをポンポンと叩く。

見上げるリリィに微笑みを向け、ラヴルは二人の後を追うように屋敷の中に入った。

残されたリリィは、頬を染めて触れられた頭をそっと抑えた。