魔王に甘いくちづけを【完】

―――失礼極まりないわ。

こんな方がバルの側近だなんて、とても信じられない。

確かに、頭はキレるけれど―――



いつも室長が立っている壁際の定位置にいるアリを睨みつける。

最初に見た表情とちっとも変らない、能面のような顔。

素直に“小瓶を渡せ”と言えばいいのに、あんな風に拘束して脅すなんて、女性の扱いがなってない。

それに、逃げるのに懸命になっててよく覚えてないけれど、いろいろと不必要に触れられた気がする。

確かにあの時は、すぐにでも小瓶の中身を吹きつける気は満々にあったけれど。

渡せと言われても素直に出さなかったけれど。

でも、仮にもバルの側近を務めてると言うのであれば、主の妃候補の女性に対して、あんな態度をとるべきではないわ。

まるで礼儀がなってない。

隙があったら、小瓶を取り返して吹き付けてあげたい。


ちらっと様子を窺うと、アリは無言のままずっとこちらを見てる。

あれでは、隙なんてとても生まれそうにない。



―――悔しいくらいに敵わなかった。

しかも、もう少しで唇を奪われるところだった。

例えフリだったとしても、絶対に、許さないんだから―――



じろっと睨みつけると、冷静な瞳とばっちりと合ってしまう。

守ると言ってたからには、こちらを見てるのは仕方ないけれど、嫌悪感がむかむかと湧きあがってくる。

とても腹が立つ。



“申し訳ありません”


跪いたまま、何度も謝ってきたけれど。

言葉とは裏腹に、全然申し訳なさそうに見えなかったんだもの。

ここにいないラヴルに助けを求めるほどに、とても嫌で、とても怖かったんだから。

ドアの向こうの大きな背中はもちろん、外にいる白フクロウさんまで思い浮かべてしまったのだから。




―――バルが戻ったら、一言文句を言わないと気がすまない。

こんな方を守りに寄越すなんて―――



ぷんぷんしながらマリーヌ講師から出された課題に目を向ける。

今日もどっさりと出された課題。



“ユリア様がぼんやりとしておられた分、増やしておきました”


眼鏡を摘まんでツンと言ってたとおり、いつもより一枚多い。

さぁっと一読すると、案の定聞いてなかったところが問題に出されてる。



・・・マリーヌ講師ったら・・・

聞いてないところ知ってるはずだもの。

だから、これってわざとよね・・・。




澄ました顔が脳裏に浮かぶ。

本は持ち帰ってしまっていて、分からないところも調べようがない。

えっと・・どうしようかしら。