魔王に甘いくちづけを【完】

「静かに。大丈夫です。大人しくして下されば痛くしません」



一体何がどう大丈夫だと言ってるのか。

痛くしないってどういうことなの。


力いっぱい抵抗し続けてるというのに、拘束している目の前の体は悔しいくらいに微動だにしなくて、息も乱れていない。

声も、感情がないのではないかと思うくらいに抑揚がなく、冷静そのもの。

とても女性を襲ってる男性とは思えない。



ドレスのスカートをかき分けるようにしていた手は、やがて布の切れ目を探し当てて中にぐぃと入り込んできた。


――――っ、そこは・・・。

そこにあるのは――――


微動だにしなくてもいい。くぐもった声でもいい。

とにかく諦めないで抵抗しないと。

体を動かしていれば、アリの目的は果たしにくいはずだわ。

最後の力を振り絞って声を出しながら手足をばたつかせてると、すっと腕の力が弱まった。



「やめなさいと、言ってるで―――」



後頭部に当てられていた掌がするりと前に廻り込んできて、顎に指先が掛けられた。

ぐいっと上を向かされ、感情の読めない表情が目に映る。

腹が立つほど無表情で冷静な顔。



「貴女様は、どうすれば黙って頂けるのでしょうか。全く強情な方ですね。これでは、人が来てしまいます。騒がないで頂けますか。でないと、今度は貴女様の口を塞がなければなりません。・・・・ここは、王子様にしか許していないのでしょう」



顎に掛けられていた指がのびて、唇をツーと撫でる。

その行為に、ぞわぞわとした嫌悪感が湧きあがる。

出来れば、私も王子様に叱られたくありませんので、と言って見下ろしてくる瞳には少しだけ怒りの感情が見える。


「―――バルは、そんなことしないわ」



バルは、こんな風に無理に触れて来ない。

私が身を任せることができる男性は、一人だけだもの。

他の誰でもない。

なのに、この方は―――――


唇を噛みしめて冷淡に見える顔を睨みつける。

悔しくて、涙が滲みでてきた。



・・・このまま、されるがままになるしかないの?

・・助けて・・・ラヴル・・・


お願い、助けて・・・。