魔王に甘いくちづけを【完】

「―――っ、な・・・何を言ってるの?・・やめなさい」


変わらずに暴れようとしていると、全く、仕方ないですね、と呟きが聞こえてきた。

背中に当てられていた掌が、ゆっくりと下におりていく。

脇から差し入れられてるもう片方の腕は、背中から頭までをすっぽりと覆っていて掌は後頭部をしっかりと固定していた。

抵抗しようにも、身動ぎも出来なくなったこの状態ではどうすることも出来ない。

ヒタヒタと腰のあたりをアリの掌が動きまわる。

嫌な感覚がゾワゾワと背筋を這いあがっていく。


“気をつけろ”


今朝、ジークに言われたことが頭の中を掠める。



ラヴル以外の男性に触れられたくない。

こんな失礼なことをされるなんて、信じられない。


叫びたくても、ショックのあまり声を出すことが出来ない。

腰をサワサワと触ってる手から逃れようとなんとかして身を捩っても、力強いアリの腕に難なく引き戻されてしまう。



「大人しくして下さいと、先程からお願いしてるではありませんか」



―――っ・・・これはお願いではないわ。

無理矢理、というものよ。

大人しくなんて、出来るわけないでしょう―――



頭の上から、うむ・・この辺りか・・と呟いてるのが聞こえてくる。

何を探しているのか、嫌な予感しかしなくてゾッとする。

このまま思う通りにされたくない。

なんとか、なんとかして逃げないと。

誰かを、呼ばなければ――――



ドアの向こうにいる大きな背中が頭の中にちらつく。

大きな声を出せば、きっと、気付いてくれるはずだわ。



腰のあたりを探るのに気を取られたのか、拘束が少しずつ弱まり始めた。

それを機会に、厚い胸板で塞がれていた口を引き剥がして息を吸い込み、喉のあたりに詰まっていた声を懸命に絞り出した。



「ゃっ・・やめなさい。無礼でしょう!・・誰か、このっ―――」


叫んだ声が、途中からモガモガとくぐもったものに変わる。

頭を支えていた掌に力が入って、ますますアリの胸に押し付けられてしまった。

口と鼻が塞がれて、息が苦しい。