魔王に甘いくちづけを【完】

リリィが部屋を出ていったのとほぼ同時くらいに、静かな羽音が聞こえてきた。

目を向けると、窓の外に白フクロウが戻ってきているのが見えた。

すでに定位置となった場所にふわりとおさまる。

近寄るとぴくんと頭をあげた。ガラス玉の瞳がキラリと光る。

また暴れるかもしれないと思って身構えてたけれど、意外にもじーっとしてて大人しい。

言葉は分からないだろうけど、ガラス越しに話しかけてみた。

独りごとになってしまうけど、返事はなくても気が紛れる。




「ねぇ、白フクロウさん。あなたも、家をなくしたの?だから、ここにいるの・・・?」



風に煽られて純白の羽がふるふると揺れる。

揺らぐことなく見つめてくるガラス玉の瞳は、不思議な雰囲気を纏ってて、まるで全てを見透かされてるような気分になる。



―――カツン・・・カツン・・・―――


嘴が窓ガラスに当てられる。

気のせいか、瞳がうるっと水を含んでるように見える。



「もしかして泣いてるの?でも駄目よ、入れられないの」



・・・カツン・・・カツン・・・



何度もガラスに嘴を当てる白フクロウ。

うるるんとしたガラス玉の瞳に見つめられ、胸がきゅぅとなって手が勝手に動いてネジ式の鍵をまわし始めた。



――――少しだけなら、大丈夫よね?――――



カチャカチャという音に反応し、何が起こるのか分かったのか、嘴を当てる行為をぴたとやめた。

大人しく窓の向こうで、開けられるのを待っている。





「ユリア様、いけません!」


急に発せられたテノールの響き。

言葉と一緒に鍵をまわしている手がすっぽりと覆われた。



「きゃぁっ」

「驚かせて申し訳御座いません。ですが、あの白フクロウは入れてはなりません。正体が知れませんので」



窓の外を睨むブラウンの瞳。

白フクロウは男に向かってしきりに鳴き声をあげている。

急な出来事に驚きながらも包み込んでいる手を見る。

男らしい武骨な大きな手。

騎士の方かしら。



でも―――この方が部屋に入ったこと、全く気が付かなかった。

ドアを開ける音も、足音も、しなかった。

あの山のような体から延びる手が開けるドアは、いつもキィというぎこちない音がするのに。

一体いつの間に、ここに―――?



それに、いつもすぐに来てくれる室長がいないわ。



「あの・・・貴方は誰なの?室長はどこですか?」