魔王に甘いくちづけを【完】

「今夜のは、私のような独身男女が集まる・・・ていの良いお見合いパーティです。ユリア様が参加されるようなモノでは御座いません。・・・さぁ、この話はおしまいです。講義を始めます」



生真面目に受け答えてくれる今日のマリーヌ講師は、ツンツンがツンだけになってて、やっぱりとても女っぽい。

眼鏡を上げる癖も頻度が低くて、仕草も柔らかい。

本人は全く気付いていないみたいだけど。

お堅いこの方がこうなのだから、他の女性はもっと艶めいてて心はソワソワしてるのかもしれない。

男性はジークしか見てないけれど、いつもよりも熱っぽい雰囲気だったっけ。

ここにフレアさんがいたら、瞳も熱っぽくなるんだろうな。

きっと、会いたいはずだわ。

ということは、一旦森に帰るのかしら?



いろいろ考えながら手に持ったペンをぷらぷらと振る。

それを見咎めた眼鏡の奥の瞳が、きりっと釣り上がった。



「ユリア様!さっきからずっと、心ここにあらず、のようですが?きちんと集中して下さい!王子様が帰城されるまでに、最低でもカンダルの章まで覚えて頂きますから!」

「はい、すみません」


細い指が法律書の目次をびしっと指し示す。

浮ついた気持ちがぴりりと引き締まった。

改めて座りなおしてマリーヌ講師のキラリと光る眼鏡の奥をじっと見つめた。

今は、講義に集中しなくちゃ――――







明るい日の光がさんさんと降り注ぐラッツィオの城。

衛兵は規律正しく動き、侍女や使用人は与えられた仕事をテキパキとこなす。

今のところは、普段通りに見える城の光景。


違うのは、バルの城宮の最上階の窓際に白フクロウがいることだけ。

それは朝からずっと動かずに、そこにいる。

たまにうとうとと眠りかけるが、ガラス玉の瞳は、基本的には部屋の中に向けられている。

それは、朝食を食べている時も。

ジークが来てる時も。

今も、ずっと――――――











「ユリアさん、聞いてっ」

「リリィ。どうしたの?ランチは?それに、今日は一人でいちゃいけないんでしょう?」



ランチを前に部屋に駈け込んで来たリリィは余程急いで来たのか、息を切らしていた。

上下するその小さな肩の向こうをちらっと見やると、お馴染みの見習い侍女たち二人がいて、ニコリと微笑んで丁寧に膝を折った。

その姿を、すっかりなじんでしまった大きな背中がゆっくりと隠していく。