魔王に甘いくちづけを【完】

失礼します、と言って、何度も手をやるせいで斜めになってしまった髪飾りを、そっと外してつけなおしてあげる。


「・・・っ、えぇ、出掛けます。夕暮れからパーティがあるのです。友人に誘われまして。無理矢理で・・・仕方なく。・・・直していただいて、ありがとうございます」



予想外に伸ばされてきた手と、尋ねられたことに驚いて振り返るマリーヌ講師。

眉間に皺を寄せて見せるその瞳は、言葉とは裏腹にどこか嬉しそうに見えて、イヤイヤ参加するようには感じられない。



「髪飾り、あまり触らない方がいいわ。そのうち髪も崩れてしまうもの。パーティですか。いいですね・・・私も行ってみたいわ」



思えば、外出したことなんて数えるほどしかない。

指折り数えても5本の指は半分以上が立ったまま。

どこかの深窓の姫君みたいに、建物の中から出たことがない。

出入り口を壁のような背中に塞がれた今の状況は、言葉は悪いけれど、幽閉に近い。

それでもあまり苦痛に感じられないのは、過去もそれに近い生活だったからかも。



・・・パーティ・・・か。

楽しげなおしゃべりと笑い声。

軽い音楽でダンスを楽しむ笑顔。


一度だけ連れてってもらったヤナジの夜会を思い出す。

あの時は、雰囲気を楽しむ間もなく帰ってしまったんだっけ。

何だか嫌なことばかり思い出すわ。

あれは、全部ラヴルがいけないのよ。

待ってるって言ったのに、他の方と会っていたんだもの。

私が変な男の方に掴まったのも。

二度も髪を乱してしまったのも。

全部、全部がラヴルのせいなんだから。



部屋の中で見つめ合っていた二人の姿。

あの時のことを考えると、途端にモヤモヤとした気持ちになる。

どよーんとした重いものが胸の中に詰まっているように。

とても背が高くて大人っぽくて美しい方だった。

見栄えのする身体つき。

ラヴルと並ぶと、私よりもずっとお似合いなんだもの―――





“ユリアだけだ”


伸ばされる大きな手。

思い出すと胸が締め付けられる。

私には、貴方の心を縛る権利はないけれど、私だけの貴方でいて欲しい。

そう思うのは我儘だって、贅沢だって分かってる。

貴方にとって“必要”でしかない私だけど。

私には貴方だけなのだから。

貴方だけを想っているのだから。


いつか、ここを離れて

貴方の元に、帰ることが出来るのかしら―――