魔王に甘いくちづけを【完】

ジークは少し目を見開いた後、あぁ、そのことか、と呟きながらゆったりともたれさせていた体を起こした。

膝の上に肘を乗せて身を乗り出すような恰好になって、そういやぁお前は何も知らんのだったな、と言葉を継いだ。



「例え満月の夜であっても、俺たちはむやみやたらと変身することはないんだ。だから、今夜も狼になる奴はいない。別の意味の狼にはなるがな。・・・お前もリリィも、俺たちが狼になったところは一度も見たことないはずだ。だが、血が騒ぐために瞳の色が変わることは、ある・・・お前、バル様の金の瞳を何度か見たことがあるだろう?」


「えぇ、あるわ。それに私、前に一度、バルの狼の姿を見たことがあるの」


「そうか、見たか。バル様の狼の姿は雄々しいだろう?国中の者の憧れだ。お前幸運だったな。金の瞳も合わせて、滅多に見れるもんじゃないんだぞ」


「―――そう、なんですか・・・?」




―――バルの金の瞳。

キラキラとしてて魅入ってしまう程綺麗だった。

憧れるのも分かる気がする。

私は、そんなに貴重な物を見てたのね。

そういえば。金の瞳を見たと言った時の、室長のおかしな様子。

あれは、単に羨ましかっただけなのかも―――




「俺たちは普段、狼姿は愛する者にしか見せん。緊急時には躊躇せんが。他の種族はどうだか知らんが、真の姿はなるべく隠すもんだ。俺たちは、ガキの頃から必要以外に変身しないよう教育―――――・・・ん、何だ?・・・お前、何か残念そうだな」


「っ・・・、そんなことはないわ」


てのひらをぶんぶんと横に振って慌てて否定すると、ジークはにんまりと笑った。


「あぁ。もしかして見たかったのか?そりゃぁすまん・・・見せてやりたいのはやまやまだが、こればかりはそうもいかんのでな」


バル様が帰られたらお願いして見せてもらえ、と言ってハハハと楽しげに声を立てた。



ジークはフレアさんにしか見せない、それは分かるわ。

だけど、そうしたらバルだってお妃様の前でしか変身しないことになる。

だったら、見せて貰えるわけはないわ。

それに満月は過ぎてしまうじゃない。

そんなこと、ジークだって知ってるのに。



「見たいだなんて・・・そんな風には思ってません。ただ、ジークの手がいつもより毛深いように見えたから、夜になったら狼に―――?って、そう思っただけです」




―――そう、決して。

ふわふわもふもふの揺れるしっぽと、ぴくぴく動く大きな耳が見たかった、だとか。

ジークや王妃様が狼になったら、なんて想像してもいないし、考えてもいない。

月に向かって遠吠えなんて野性的で素敵、とか、出来ればしっぽを触ってみたいだなんて、全然思ってないんだから。

決して―――



「―――違いますから」