魔王に甘いくちづけを【完】

「うむ、少し重くなった」

「なっ・・・重いって・・・あの・・・・それに必要――――って、どういうことですか?それに何処に行くのですか?あの・・・降ろして下さい」


何を言っても、何を問いかけても、ラヴルは黙ったままスタスタと歩いていく。

一体何処に行くのか、そのまま部屋を出てしまった。

廊下を進んで行き階段をずんずん上っていく。

すると、ナーダの焦った声が追いかけてきた。



「お待ち下さい!何処に行かれるのですか?ラヴル様、ユリア様は夜着のままで御座います」


「ナーダは黙っていろ」


「そう言うわけには参りません。ユリア様はか弱き方です。せめて羽織るものをお持ちください―――」


ナーダは急いで部屋に行き、ショールを手に戻ってユリアの体に掛けた。


そして居住まいを正して丁寧に頭を下げた。



「行ってらっしゃいませ」


「うむ、朝には戻る―――」





―――出かけるって・・・これって、何処に向かっているのかしら。

このままだと、一番上の階に行ってしまう―――



ラヴルは階段をどんどん上がっていく。

やがてユリアの思ったとおり、最上階まで来てしまった。

そこは窓もない上に、明かりもなくとても暗い。

目を凝らしてよく見てみると、前方に細長いドアが見える。



「あの・・何処に行くんですか?ここはどう見ても、出かけられるような場所には見えないんですけど」


「ここからの方が都合がいい。どこにいくかは内緒だが、ユリアに見せたいものがある」


静かな声で言うと、ラヴルは漆黒の瞳を赤く光らせた。

すると細長いドアが勝手に開き、二人が外に出ると勝手に閉まった。

ユリアは手も使わずにドアをが開いたことに驚いたが、それよりも、目の前に広がった光景にもっと驚いた。



―――・・・ここは何なの?・・山の上??・・・にしても―――



そこは、今の今まで思っていた世界と全く違っていた。

さっき部屋から見た景色は遠くに水面が見え、窓の下には森が広がっていて、その中に家があるのか、まばらに灯りが灯ってて、そこに住む人の息吹が感じられたのに。

あの景色は幻なのか、本当なのか、今見てるこっちの方が幻なのか。



ドアを開いた先に広がっていたのは、遮るものが何もない、見渡す限りの星空。

申し訳程度に取りつけられた柵の下は真っ黒な闇が続き、底が全く見えない。

覗き込むと吸い込まれてしまいそうな闇が広がる。


ラヴルは人がやっと二人立てるかどうかの、ほんの少しのスペースに立っている。


少しでも強い風が吹けばよろけて落ちてしまいそうで、堪らなく不安になる。