魔王に甘いくちづけを【完】

あの後ナーダに見張られながらも、何とか全部食べ終わり、すっかり満腹になってお腹をさすっていたところに、最後のデザートが運ばれてきた。

そのデザートも“全部食べて下さい!”と言われ、やっとの思いでお腹の中に収めた。

おかげで、ぼんやりしていた頭が随分とすっきりした。


空っぽになったお皿を見て、満足げにうんうんと頷き、ナーダは食器を片付けてさっき部屋を出ていった。


窓の外はもう夕闇が迫ってきている。


「私が起きたのは、朝じゃなかったのね・・・」


大きく開け放たれた窓からは、水面に沈んでいく太陽が見える。

夕焼け色の光がゆらゆらと水面を照らし、部屋の中がオレンジ色に染まっていく。

部屋の中の家具もベッドのシーツも、みんな夕焼け色に染まり、ユリアの頬もオレンジ色に染めていた。

太陽は水面にゆっくりと身を沈め、それに呼応するように星が空に瞬き始めた。

夕日にキラキラと輝いていた水面が、闇に支配されていく。


綺麗―――


閉ざされた空間から解放された瞳には、映る景色はとても美しくて、飽きることなく眺めていられた。




窓の傍に佇み、外をじっと眺めているユリアの傍に、ゆっくりと近付いていく人影。


漆黒の髪に黒い衣装を身に纏い、足音を立てず滑る様に部屋の中を進んでいく。


「ユリア、気分はどうだ」


「ぇ・・・?」


声の方に振り返ると、いつの間に傍に来たのかラヴルが後ろに立っていた。



――今足音が全く聞こえなかったわ・・・。


昼間はあんなに大きな足音がしていたのに。


それになんだか雰囲気が違う?

昼間の服はベージュでとても優しげな印象だったのに、今は黒い衣装を身に纏ってるせいか、とても威厳があって怖く感じる。



空には満月からは少し欠けた月が浮かび上がり、遠くの水面を妖しく照らす。

ラヴルの漆黒の瞳が月明かりに照らされて妖しく光り、ユリアの姿を見つめる。

ストレートの黒髪が夜風にサラサラ揺れて柔らかな光を受け艶々と艶めく。滑らかな頬に形の良い唇、それに白い肌が夜の闇に一層美しく映えている。


ラヴルの長い指がスゥっと髪に伸び、一束すくった。

恭しく持ち上げ、そっと唇を落とし、そのまま長い指が丁寧に黒髪を梳いた。



「具合はどうだ?食事は全部食べられたか?」


「はい・・・」



髪を梳く指が心地く感じる。


まるで魔法にかけられたように、体が痺れて動かない。



「そうか、それは良かった」



その言葉と同時に指が髪から離れ、ラヴルの体が足元に沈み込んだと思ったら、ふわりと体が浮いた。


「ぇ・・・あの・・・何を?」


「私にはユリアが必要だ」