魔王に甘いくちづけを【完】

「リリィ、顔色が悪いが、大丈夫か?」

「私は平気です。それよりも・・バルさん。あの・・・あの・・・ユリアさんは?・・・ユリアさんは、無事なの?」

「あぁ、心配するな。大丈夫だ、キズひとつない。だが、少しばかり動揺してる―――ジーク・・・」

「はい、バル様。承知いたしております。ここは大したことありません。見た目は酷いですが、皆割と軽傷なんですよ。そりゃぁ中には重傷なのもいますが・・・命を取られることは、ありません」



話をしながらもジークの手は休みなく動く。

手際良く傷を確認し、縫合していく。



「しかし、よくお戻りになりましたな。でなければ、どうなっていたか。恐ろしくて想像もしたくありません。もしや、勘が働いたのですか?」



愛の力ですな、素晴らしいことです、と呟きながら包帯をくるくると手際よく巻きパチンと端を切る。

あざやかに動き回るジークの腕。

その隙間を掻い潜るようにリリィの小さな手が隣から差し出され、包帯を出したり汚れたガーゼを受け取って捨てたりしている。



「いや、そんないいものじゃない。ジーク、俺の勘が悪いのは知ってるだろう?」





これは、あいつのおかげだ―――――


“バル兄しゃま”


よちよちと歩き、舌足らずに名を呼び慕ってきたのが、つい昨日のことのように思える。

いつまでも子供だと思っていたが・・・。

いつの間にか心も体も強く成長し、俺に臆することなく意見を述べ、しかも説教までするようになっていた―――――



「貴方様は何やってんすか!?」



不機嫌な声が耳にキンと響いた。

王子であるこの俺に、耳の痛い言葉を向ける事が出来るのは、城中でも数えるほどしかいない。

側近のアリでさえ、滅多に意見してこない。

旅の人員にあいつを入れたのも、俺を抑することが出来るからだ。


あいつがあの時に“戻る”と言って強引に隊を止めていなければ、あのまま彼女に会うこともなく進んでいた。


俺はもう少しで、一つどころか、二重の後悔をするところだった。



しかも、悔やんでも悔やみきれない深い苦しみを、味わうところだった。