城宮の螺旋階段を急ぎ駆け降りる。
所々にある血だまりを眼の端に捕らえる。
踞り横たわる衛兵と使用人たちの姿を見たときは、体中の血が一気に引いた。
奴が向かった先を覚ったときは、心臓が一瞬止まったかのように感じた。
油断していた。
俺の城宮でこんなことが起こるなど。
しかも、奴は身内だ―――
「平和に慣れてしまったか」
負傷者はすべて近衛騎士団員が御殿医の元に運んだはずだ。
城宮の中を駆け抜け中庭を抜け大きな温室の脇を過ぎると、城の中でも一際小さい宮が見えてくる。
常駐御殿医のいる医療宮だ。
細い斜め格子がはめられた洒落たデザインのドア。
それを開くと、中は騒然とした空気に満ちていた。
数名の御殿医が横たわる負傷者の間を飛び回っている。
「あぁ、ちょっと落ち着け。大丈夫だから」
呻き声と激励の声が交差するその最中、一人落ち着いて対処するジークの野太い声がした。
ジークの診ている患者がしきりに声を出し、痛みを訴えている。
大きな体の向こうに、ちょこまかと動く赤毛が見え隠れする。
あれは、リリィだな。
「おい、痛むのは分かる。だが、男だろう。大人しくしろ。リリィ、ちょっとこれを持っててくれ」
差し出されたピンセットのような医療道具を、小さな手が受け取った。
「はい。こうでいいの?」
「あぁ、上手いぞ。そのまま頼む―――お前、少しばかりの間我慢しろ。ここで可愛い子が見てるぞ―――」
ジークの手が動くたびに、蒼白な頬した使用人の体がピクピクと動く。
歯を食いしばり痛みに耐えてるようだ。
すると、それを見ていた衛兵がもぞもぞと動き出した。
さっきジークに予診されていた者だ。
背中はじっとりと濡れているが、痛みがないために、多分治療が終わったと思ったのだろう、ヨイショ・・と声を出し立ち上がりかけている。
それを目の端にとらえたジークは、手を止めることもせず顔を向けることもせずに、言った。
「あぁ・・そこの衛兵。・・・そうだ、お前だ。お前は動くな。さっきのは緊急処置しただけだからな、キズがすぐ開くぞ。次に治療するからそこで大人しく待っとけ」
全く、さっき待ってろと言っただろう、と言いつつ目の前の患者の傷口の治療をしている。
言われた衛兵は自身を指差しながら、俺のことか?と聞いて大きく頷かれ、苦笑しながらも大人しくジークの言葉に従い、首を傾げながらも再び座った。
相変わらずの落ち着きと見事な治療手腕。
さすが、国一番の名医だ。
「ジーク、苦労をかけるな。リリィも、手伝わせてすまんな」
声を掛けると見上げてきたリリィの瞳が不安げに揺れた。
言いたいことは、分かる。
「バルさん・・・あの・・・」
所々にある血だまりを眼の端に捕らえる。
踞り横たわる衛兵と使用人たちの姿を見たときは、体中の血が一気に引いた。
奴が向かった先を覚ったときは、心臓が一瞬止まったかのように感じた。
油断していた。
俺の城宮でこんなことが起こるなど。
しかも、奴は身内だ―――
「平和に慣れてしまったか」
負傷者はすべて近衛騎士団員が御殿医の元に運んだはずだ。
城宮の中を駆け抜け中庭を抜け大きな温室の脇を過ぎると、城の中でも一際小さい宮が見えてくる。
常駐御殿医のいる医療宮だ。
細い斜め格子がはめられた洒落たデザインのドア。
それを開くと、中は騒然とした空気に満ちていた。
数名の御殿医が横たわる負傷者の間を飛び回っている。
「あぁ、ちょっと落ち着け。大丈夫だから」
呻き声と激励の声が交差するその最中、一人落ち着いて対処するジークの野太い声がした。
ジークの診ている患者がしきりに声を出し、痛みを訴えている。
大きな体の向こうに、ちょこまかと動く赤毛が見え隠れする。
あれは、リリィだな。
「おい、痛むのは分かる。だが、男だろう。大人しくしろ。リリィ、ちょっとこれを持っててくれ」
差し出されたピンセットのような医療道具を、小さな手が受け取った。
「はい。こうでいいの?」
「あぁ、上手いぞ。そのまま頼む―――お前、少しばかりの間我慢しろ。ここで可愛い子が見てるぞ―――」
ジークの手が動くたびに、蒼白な頬した使用人の体がピクピクと動く。
歯を食いしばり痛みに耐えてるようだ。
すると、それを見ていた衛兵がもぞもぞと動き出した。
さっきジークに予診されていた者だ。
背中はじっとりと濡れているが、痛みがないために、多分治療が終わったと思ったのだろう、ヨイショ・・と声を出し立ち上がりかけている。
それを目の端にとらえたジークは、手を止めることもせず顔を向けることもせずに、言った。
「あぁ・・そこの衛兵。・・・そうだ、お前だ。お前は動くな。さっきのは緊急処置しただけだからな、キズがすぐ開くぞ。次に治療するからそこで大人しく待っとけ」
全く、さっき待ってろと言っただろう、と言いつつ目の前の患者の傷口の治療をしている。
言われた衛兵は自身を指差しながら、俺のことか?と聞いて大きく頷かれ、苦笑しながらも大人しくジークの言葉に従い、首を傾げながらも再び座った。
相変わらずの落ち着きと見事な治療手腕。
さすが、国一番の名医だ。
「ジーク、苦労をかけるな。リリィも、手伝わせてすまんな」
声を掛けると見上げてきたリリィの瞳が不安げに揺れた。
言いたいことは、分かる。
「バルさん・・・あの・・・」


