魔王に甘いくちづけを【完】

困った表情が安堵のものに変わる。

「そうか、良かった―――――あぁ、いや、良くないんだが・・・怒らせて、すまん。俺は、王子だ。答えたくない質問や、言わせたくない言葉は先に遮る癖がある。さらに、希望を叶えるため、相手に有無を言わせないこともある」


気のせいか、バルの瞳が潤んでいて熱を持ってるように見える。


「・・・俺は、なるべくなら、お前にはそうしたくない。これからは気をつけるよう努力する」


乗せられていた掌に力が籠り、だから俺を許してくれるか?と聞いてきた。

こんな風に謝られて無下にすることなんてできない。


はい、と素直に答える。

すると、重ねられていた手が顔の方に移動してきて、頬に触れる寸前でピタリと止められた。



「部屋に入ってからずっと、気になっていたんだが。今朝は、目が腫れてるな・・・。昨日、眠れなかったのか?・・・そうだな。これは、泣いたような感じだ」

「ぇ?いいえ、そんなことは・・ないです」


探るような瞳を向けるバルから、逃げるように顔を逸らした。



―――昨夜のこと・・・。


“ユリア”


懐かしいあの声と姿・・・

あれは夢か現実か分からないけど、泣いたのは事実。

頬が濡れていたもの。

でも、バルはどうして分かるのかしら。



「こっちを向け―――何か、あったのか?妃教育のことか?」

「何も、ありません」

「嘘だろう。今までどれ程の時、お前を見てきたと思ってる。喜怒哀楽、いろんな顔を知っているんだ。俺は、ごまかせんぞ」

「ぇ、誤解してるわ。あの、目が腫れてるのは・・今朝、目にゴミが入ってしまったせいだと思うの。それと、さっきの涙で・・・。さっきのでさらに腫れたのだと思います。妃教育とか、何もありませんから心配しないで」



慌てて微笑みを作って向けると、ふぅ、とため息が吐かれた。



「うむ、答えたくないなら、仕方がないな―――この姿を見て気付いてると思うが、俺は、今日から少しばかりの間出掛けてくる。留守の間は、この城宮の守りが薄くなる。さっきのこともあって、実はかなり不安なんだが・・・」


「あの方は、この宮の?」


「いや、奴はこの宮の者ではないが、城の仕事に従事してることは確かだ。今奴を尋問してる同行予定だった近衛騎士団長ルガルドを置いていく。俺をぬかせば、国一番に強い男だ。それに、ジークの部屋をこの隣に変更する。これで心配は少なくなるが、お前も十分気を付けていてくれ」


「はい」


「旅から戻ったら、お前に話がある。大事な話だ。そのつもりでいてくれ」



微笑み、すくっと立ち上がるバル。

そのままドアに向かい声をかけた。



「―――室長侍女はいるか」