魔王に甘いくちづけを【完】

バルの腕の中は獣と血の匂いがする。

2つとも、私を守ってくれた匂い。


「・・・戻って、良かった」


後頭部に手が添えられて広い胸板に頬が押し付けられた。

バルの心臓の音が聞こえてくる。

鼓動の音が少し早く感じるけどこれはきっと、さっきの戦闘のせい。


抱き締められたおかげか、ごちゃごちゃしていた頭の中が真っ白になった。

徐々に気持ちも落ち着いてきて、体の震えも止まった。

完全に怖さが消えた訳ではないけれど、バルの腕の中は温かくてちょっぴり安心できた。



「いいか、お前が何も出来ないのは当然だ。寧ろ、何もしちゃいかんのだ。お前は守られるべき者だ。何があっても、前面に出てはいかん」

「何もせず、見てろって言うの?」

「そうだ。嫌なら見てなくてもいい。だが前に出るな。俺の後ろにいろ。なんとしても、お前を守るから。ジークや侍女たちも、俺と同様に思ってる。室長だってそうだ。懸命に守ろうとしただろう」



―――でも。

でも、それじゃ皆が危険な目にあうじゃない。

・・・分からない、どうしてなの?私が弱いから?

だから、守ろうとするの?



「バル、違うわ。・・・そんなの、おかしい。こんなドレスを着てるけれど、私は、みんなに守られるような身分じゃないわ。まして、王子様の貴方にだなんて。・・・ここで、一番守られるべき者は、貴方でしょう?私は――――っん・・・」


「お前は!」


いきなりがばっと体を離され両肩をガシと掴まれた。

乱暴にソファの背もたれに体が押し付けられ、背中がドサ・・と音を立てた。


今まで見たこともないような顔が向けられる。

眉根が寄せられていて怒ってるように見えるけれど、瞳はとても哀しげで。

訴えかけるように見つめてくる。



「お前は何を言ってるんだ!確かに、俺は、この国の王子だ。守られるべき者では、ある。だが、お前は―――俺は――――っ・・・」


言いかけて開いていた唇がきゅっと結ばれる。

肩を掴んでいた手の力が緩んでいく。

やがて手が離されバルはすくっと立ち上がった。

横を向き瞳を逸らしたまま、やっと聞きとれるほどの小さな声で呟くように言った。



「乱暴にしてすまない・・・・お前は・・・預かり者だ・・・怪我ひとつとして負わせられん。守るのは、当然だ」



そのまま上を向いて黙ってる。


何を思っているのか、深い息も吐いている。