魔王に甘いくちづけを【完】

それは叶わないとわかってるのに。


体に心に貴方が刻み込まれている。


これでは、一生忘れられそうにない・・・。




・・・貴方は本当に、いじわるだわ・・・






『・・・ユリア、泣くな』



言葉と一緒に、何かがふわりと頬に当たる。

それが涙を拭うように動く。




やっぱり・・・貴方はそこにいるの?



これは夢の中ではないの?



でも、目を開けるのが怖い。


もし、そこにいなくて、この感覚も掻き消えてしまったら・・・。




無意識に手を伸ばす。

すると、宙を舞う手がふわりとしたものに包まれた。

反射的に目を開けると、ふわふわと揺れる人影が目に入った。


覆い被さるようにして見下ろしている。


それは、ラヴルを象ってはいるけれど、向こう側にある天蓋が透けて見えた。





「ラヴル・・・なの?」




これは、何?幻なの?

ぼやぼやとした顔が下りてくる。



涙にかすむ貴方は、以前と変わらずに妖艶に微笑む。





『・・・まじないだ』




額と頬に、唇が当たる感触がした。

それが離れていき、髪を撫でる手も離され、目の上にある唇が呟いた。



『うむ・・・もう、限界だな』



同時に象っている形が揺らぎ、どんどん薄くなっていく。




もしかして、このまま消えてしまうの――――?





「待って、ラヴル。お願い、待って―――」




もう少しだけ―――



もう一度手を伸ばすも、指先は空を掴むだけ。




『・・・ユリア・・・必ず・・・』




「なに?聞こえないわ・・・ラヴル・・・」




聞き取れない言葉と切なさを残し、ラヴルの影は跡形もなく消えた。