一度目に発せられた声と、2度目に発せられた声は全く違っていた。
きっと2度目の声が、あの立ち上がっていた人の声なんだわ・・・。
その方を見たら、そこだけ他のテーブルとは空気が違って見えた。
椅子に座っていたあの方の、落ち着きがあるような、威厳があるような不思議な空気――――
周りの方たちの浮ついた雰囲気とは全く違っていて、とても目立っていた。
あの方は何者なのかしら。
黒服たちはざわめいていたけど、1000って一体どれだけ高額なの?
『どうぞ、此方で御座います。もうあの者は貴方様のもので御座います。ご自由にお連れ下さい』
鍵を開ける音が小さく響いた後ドアが開かれ、背の高い男の人と娘より少し高いくらいの男の人が入ってきた。
二人とも、まだ仮面と口髭をつけたままでいる。
「ツバキ、彼女の鎖を・・・」
「承知いたしました。ちょっとごめんよ・・・」
ツバキという男が首に手を伸ばしてきた。
「嫌・・・何をするの・・・」
仮面の中の顔が見えなくて、何を考えてるのか様子が分からなくてとても怖い。
堪らずに椅子から立ち上がってツバキから遠ざかった。
動くたびに繋がれた鎖がジャラジャラと音を立てる。
「そんなに恐がらなくてもいいだろう?その首のベルトと鎖を取るんだよ」
そう言いながら近づいてくるツバキに、頭では分かっていても体が勝手に動いて逃げてしまう。
とうとう壁際に追い詰められてしまい、首をすくめて俯いていると首に巻かれていたベルトがそっと外された。
「俺、ツバキって言うんだ。此方は、俺のご主人様でラヴル様だ。お前の名前は?」
「ぁ・・私の名前は・・あの―――」
――私の名前・・・忘れてしまった大事な私の名前。
ぃっっ―――!
「うぅっ・・・」
何かを思い出そうとすると、途端に頭痛に襲われてしまう。
痛みに耐えかねて、呻き声を出しながら額を抑えて崩れるように蹲った。
「どうした?具合でも悪いのか?」
ツバキが心配げな声を出して顔を覗き込んでいる。
「ツバキ、私に任せろ」
ラヴルは娘の前に跪き、小さな顎に手をかけて上を向かせた。
ラヴルの瞳がすぅと赤く染まり、娘の黒い瞳を捕えると、瞼がゆっくりと閉じられた。
やがて寝息が聞こえはじめる。
ぐったりとした体をラヴルは腕の中にしっかりと収め、頬にかかった髪をそっと避けた。
「ツバキ、挨拶は屋敷に連れ帰ってからにしよう。彼女は疲れているようだ。早くここから出るぞ」
「ご主人様、そんなことは私が致します」
娘を抱きかかえたラヴルを見て、ツバキは慌てて腕を差し出した。
「いい。私が連れていく」
出口に向かい歩きながら、軽いな、と呟いた。
きっと2度目の声が、あの立ち上がっていた人の声なんだわ・・・。
その方を見たら、そこだけ他のテーブルとは空気が違って見えた。
椅子に座っていたあの方の、落ち着きがあるような、威厳があるような不思議な空気――――
周りの方たちの浮ついた雰囲気とは全く違っていて、とても目立っていた。
あの方は何者なのかしら。
黒服たちはざわめいていたけど、1000って一体どれだけ高額なの?
『どうぞ、此方で御座います。もうあの者は貴方様のもので御座います。ご自由にお連れ下さい』
鍵を開ける音が小さく響いた後ドアが開かれ、背の高い男の人と娘より少し高いくらいの男の人が入ってきた。
二人とも、まだ仮面と口髭をつけたままでいる。
「ツバキ、彼女の鎖を・・・」
「承知いたしました。ちょっとごめんよ・・・」
ツバキという男が首に手を伸ばしてきた。
「嫌・・・何をするの・・・」
仮面の中の顔が見えなくて、何を考えてるのか様子が分からなくてとても怖い。
堪らずに椅子から立ち上がってツバキから遠ざかった。
動くたびに繋がれた鎖がジャラジャラと音を立てる。
「そんなに恐がらなくてもいいだろう?その首のベルトと鎖を取るんだよ」
そう言いながら近づいてくるツバキに、頭では分かっていても体が勝手に動いて逃げてしまう。
とうとう壁際に追い詰められてしまい、首をすくめて俯いていると首に巻かれていたベルトがそっと外された。
「俺、ツバキって言うんだ。此方は、俺のご主人様でラヴル様だ。お前の名前は?」
「ぁ・・私の名前は・・あの―――」
――私の名前・・・忘れてしまった大事な私の名前。
ぃっっ―――!
「うぅっ・・・」
何かを思い出そうとすると、途端に頭痛に襲われてしまう。
痛みに耐えかねて、呻き声を出しながら額を抑えて崩れるように蹲った。
「どうした?具合でも悪いのか?」
ツバキが心配げな声を出して顔を覗き込んでいる。
「ツバキ、私に任せろ」
ラヴルは娘の前に跪き、小さな顎に手をかけて上を向かせた。
ラヴルの瞳がすぅと赤く染まり、娘の黒い瞳を捕えると、瞼がゆっくりと閉じられた。
やがて寝息が聞こえはじめる。
ぐったりとした体をラヴルは腕の中にしっかりと収め、頬にかかった髪をそっと避けた。
「ツバキ、挨拶は屋敷に連れ帰ってからにしよう。彼女は疲れているようだ。早くここから出るぞ」
「ご主人様、そんなことは私が致します」
娘を抱きかかえたラヴルを見て、ツバキは慌てて腕を差し出した。
「いい。私が連れていく」
出口に向かい歩きながら、軽いな、と呟いた。


