魔王に甘いくちづけを【完】

幼い瞳に川の流れが映る。

さらさらと流れる綺麗な水。

月に照らされてキラキラ光ってる。



この中に入れば、きっとおばば様に会える。

きっと、おばば様のところにつれて行ってくれる。

そしたら、やさしくあたまをなでてくれる。

よく来たねぇってやさしく笑って言ってくれる・・・・。



ちゃぷん・・・水音が聞こえた。



迷いなく引き込まれるように、入った。

ひんやりとした感触に体が包まれる。

冷たくて体の感覚が無くなる。

指先が痺れ、服が水を吸ってとても重い。


息も出来なくて苦しい。

だけど抗うことはない。


そのまま底まで沈みながら、ごぼごぼと口から泡が出るのをただ見つめていた。

上がやけに明るくて。

ゆらゆらときれいにゆれてる。



―――おばば様、まってて。今、いくから―――



薄れ行く意識の中、ゆっくり目を閉じる。

これでいいの。


このままわたしは消えてなくなるの。


みんなあんしんして。


『やっかいもの』はいなくなるから。


『こまりもの』はなくなるから―――





突然、腕を強く掴まれた気がした。

体が揺れる感じがする。


ざぶざぶという音があちこちから聞こえる。

叫ぶ声も聞こえる。



「貴様ら。何故このような・・・覚悟は・・・・」



途切れ途切れに聞こえる男の人の怒声。


女の人の金きり声。


許しを懇願する声。



「ぉ、お許し下さい。・・・我らはその様なつもりはっ・・・」



いろんな声が混じって何を言ってるのかよく分からない。

けど、抱えてくれてる人がすごく怒ってるのが分かる。


金の髪が揺れてるのがぼんやり見える。

目の前で唇が動いてる。


何かわたしに言ってるけれど・・・。


だめだよ・・・。


あらそっちゃだめ―――




―――・・・おいっ、聞こえるか。起きろ・・・起きてくれ―――



誰?誰かが私の体を揺らしてる。

私を起こすのは誰?


あ、この声は知ってる・・・でも、お願い。


このまま眠らせて。


辛いの・・・寂しいの・・苦しいの・・駄目なの・・・


私は生きていてはいけないの―――



「おい。目を覚ますんだ」




何?頬に何かがペちぺちと当たってる。


駄目、起こさないで。



・・・ぺちぺち・・・ぺちぺち・・・ピシッ




・・・、イタイ・・・