魔王に甘いくちづけを【完】

「―――失礼致します。ユリア様、お茶のお時間で御座います、一休みして下さいませ。・・・あぁ、お待ち下さい。そんなこと宜しいです。今日は、こちらに準備致しますわ」


ユリアが散らかったテーブルの上を急いで片付け始めると慌てて遮り、ワゴンを押して窓際のソファセットの方へ進んだ。

リリィと同い年にみえるその侍女は、いつものようにお茶の準備をし始めた。

見惚れるほどに優雅に手が動き、静かな部屋の中にカチャカチャと陶器が当たる音が響く。

幼さの残る顔つきに似合わないその優雅さは、教育の賜物なんだろう。


―――リリィも、そのうちこうなるのかしら。


あの元気なリリィが澄ました顔でお茶を淹れるところを想像し、クスと笑みを漏らした。



「何か、楽しいことでも御座いましたか?」

「・・・えぇ、少し」

「そうですか。それは宜しいことですわ」


ほどなくシンプルな白磁のカップに琥珀色の液体が注がれ、香ばしい香りがふんわりと部屋の中に満ちた。

頃合いを見てソファの方に移動すると、珈琲とお菓子が静かに提供された。

丁寧に編まれた薄桃色のレースの敷物。

その上に置かれたお茶菓子に、思わず目を見張った。


―――これは・・・


「・・・美味しそう・・・ね、今日はいつもと違うのね?」


―――それとも何かの勘違い?

お茶の時間に添えられるものは、大抵シンプルな焼き菓子。

それはいつも美味しくて、大好きなんだけど。

これはどうしたのかしら。

あ、もしかして誰かの誕生日なのかも。

それで、お祝いしたついでに私にも・・・ということよね、きっと。




「あの、今日は何かお祝いごとがあったの?とても豪華だわ」

「いいえ、違いますわ。祝い事など何も御座いません。・・・あぁ、そうですね―――ユリア様、驚かないでください」



侍女は一瞬目を見開いて振り向いたが、ユリアの言いたいことを察したようで、すぐに笑顔に戻ってそう言った。

うふふと笑い声を漏らしたあと、そのまま押し黙っている。

それはまるでこちらの反応を楽しんでるかのように見えて、正直少しむっとしてしまった。



「・・・っと、何なのかしら・・。やっぱり、特別なんでしょ?」

「そうなんです―――――これは王子様が購入されたものだそうですよ。し・か・も。これは『straw』のプディングなんですぅ」



さっきまで落ち着いていたのに、侍女の声がワントーン上がり瞳は潤んで光りを帯び、特別なんですよぉ、と言った頬が少し上気していた。

お菓子を指し示した手までもがキラキラとした空気を纏っているよう。



―――何だかとても興奮してるけれど・・・?