魔王に甘いくちづけを【完】

今思い出してもむかっとしてしまうのに“お前から声をかけてくれ”と言われても困るわ。

でも、ジークの言う通り、私のことで落ち込んでるんだとしたら。


もしかして、少し、反省してるのかも。


何を怒ってるのか、分かってくれたのかしら・・・?




ジークのように、うーん、と考え込んでいるとドアがコンコンと叩かれた。

いつものように侍女がドアを細く開けて相手を確認すると、急いで半開きだったドアを大きく開け放った。



「王妃様がおいでで御座います」


素早く言い、そのまま隅に寄って居住まいを正している。


―――王妃様がここに?


急いで立ち上がって礼を取っていると、コロコロと鈴の転がるような声が聞こえてきた。


あたたかい日だまりのような色のドレス。

バルに似た艶めくブラウンの髪は綺麗に結いあげられていて、煌く宝石がふんだんに付けられたティアラを付けて、今日も美しく優美に微笑でいた。



「あらまぁ、ユリアさん。

そんなに畏まらなくても宜しいですのよ。

あぁ、お茶は結構です。

すぐ帰りますから・・・あなたたちは下がってらっしゃい」


王妃が広げていたレースの扇をパシンと閉めると、侍女たちがサササと退室してドアを閉めた。



「突然来てしまって驚いたかしら。ごめんなさいね」



王妃のあとに椅子に座ると、にこやかな微笑みが一転し、瞳がふと影を持って・・・ジークは帰った様ね・・・と呟いた。

お茶会の時の柔らかな表情とはまるで違っていて、少し怖いと感じる。

そのまま王妃はお茶会のときと同じく、ゆっくりとした口調で話し始めた。



「では、早速本題に入らせていただきますけれど。

貴女、王子と何かありましたの?

あの子が珍しく沈んでおりますの。

深くため息をついて何か悩んでるようですわ・・・。

あんな様子は今まで一度たりともなかったことです。

どんな難しい政局でも議題でも、すいすい難なくこなしてしまう子ですもの。

あんなに悩む姿などついぞ見たことはありませんの。

ですから私、これは、ごく個人的なことであるとピンときましたわ。

母の勘とも申しましょうか。

貴女なら、これについて何かご存知だろうと思いまして、伺いに来ましたの」



あなたたち、何か、あったのでしょう?とジークと同様の見透かすような瞳が見つめてくる。


「いえ、何も・・・知りません」