ジークはドアの向こうで頭を下げて待機している侍女に軽く挨拶して足早に退室していった。
替わりに侍女が入室してドアのそばの壁際でうつむき加減に立った。
この城の習慣なのか、お付きの侍女はこうして部屋に常駐している。
最初は常に侍女がいることに少し不快感を抱いたが、必要な時以外はあまりにも空気のようにそこにいるので、次第に気にならなくなってきていた。
なので、それを気にすることなく、ユリアは椅子に深く座ってジークの言ったことを思い返していた。
薄紅色の唇からはぶつぶつと呟きが漏れている。
昨日は、バルの様子が急に変わってしまって、戸惑ったのは私の方なのに。
落ち込んでるって言われてしまうと、何だか、私が悪いように思えてしまうわ。
昨日は・・・バルが王子様だって分かったあの後――――――・・・
「はい」と返事した後、信じられない気持でバルをじっと見ていた。
王子様ってもっと寡黙で近寄りがたくて威厳があるものだと思っていた。
ジークの家では、みんなが気さくに話しかけてて、言葉遣いも普通だった。
それに、従者を従えてなくて、いつも一人でいるんだもの。
偉いお方とはいえ、自由に行動できる身分だとばかり思っていたわ。
だから世継ぎの王子様らしいところなんて欠片も見えなかったもの。
だから、バルが王子様っていうのは、正直ピンと来なくて・・・。
本当にバルが王子様なの?と聞こうとしていたら。
「しかし、お前は、要注意だな」
突然ぽつりと言った言葉が意味不明で。
戸惑ってると、ため息交じりで、しかも怖い顔をしてこう言った。
「相手が俺だと知らずに承諾するとはな・・・よく考えれば笑い事じゃない。これからは、よく話を聞いて考えてから行動することだ」
「え、でも、あの時は―――」
「分かったな。・・・これでは目が離せん」
あの時はバルが有無を言わせなかったんじゃない、って反論しようとしたのに、前のように強く言葉を乗せられて何も言えなくなってしまった。
言い訳を許さないような態度。
こういうところが、王子様らしいと言えばそうかもしれないけれど。
私の話を聞いてくれないのに“話をよく聞け”だなんて、そっくりそのままお返したいわ。
おまけに、何故か急に不機嫌になってしまってるし。
何も言わせてもらえないなら、もう押し黙るしかない。
だから、その後何を話しかけられてもずっとむっすりしてたのだけど―――


