魔王に甘いくちづけを【完】

ジークは自分が想像した事を打ち消すよう強く頭を振った。

すると、急に頭の中に一つのひらめきが走り、おぉそうだ、と自然に言葉が出て顔を上げた。



―――うむ、これが一つの原因かもしれんしな・・・。

ここは、言っておくべきだろう。

大体、他の者の承諾は得ていたのに、肝心な本人が知らんのが一番いかんのだ。



そう考え至り、そのままくるりと向き直ると、ユリアはその一連の動作を不思議な物でも見るかのようにじっと見つめていた。

少し気恥ずかしくなり、照れ隠しで頭を掻きむしる。



「あぁ、すまん。変なとこ見せちまったな・・・。お前は多分誤解してるだろうから言っておくことにする。多分、バル様は言わないだろうからな。・・・いいか、ここにお前を連れてくるように進言したのは俺だ。バル様じゃない」


「え、バルじゃないの?」





案の定、黒い瞳が見開かれている。

バル様も言葉が足りないところがあるからな・・・。

女性の心に疎いというべきか。

二人の間に何かあったことは間違いないが―――

この様子だと、どうやら些細なことのようだ。




「やはり聞いてないか。俺が城で保護した方がいいと提案したんだ。あのままあそこにいれば、次も守れる保証はなかったからな。ここなら、統率された衛兵もいるし、人の目も多い。相手がいくらあの方でも、ここまではそうそう来られない」



それなら、妃候補のこともジークの進言なの?と聞かれたので、いきさつをよく知らないので、あぁそりゃまた別だ、バル様に伺ってくれ、と言うしかない。


くしゃりと顔を歪めて苦笑してみせると、俯いてしまった。

想像するしかないが、きっと、小さな胸の中でいろんな感情を処理しているのだろう。

こんな場所に来て、不安なこともたくさんあるはずだ。

俺は、一つづつ取り除けるよう努力せんと・・・。


暫くそのままでいた彼女はふいっと顔を上げて俺を見つめてきた。

その瞳はまだ少し揺れている。



「そう、なんですか。あの・・バルがおかしいって。どんな風に?」


「そうだな。昨夜は、目に見えて機嫌が悪かった。態度も声も荒かった。まぁ荒いと言ってもバル様は穏やかな方だから、そんなに激しくはないんだが。慣れないことで、若い侍女が泣き出してしまったんだ。さいわい近くにリリィがいたから、おおごとにはならんかったがな」