魔王に甘いくちづけを【完】

その挙動不審な様子に、もしかしてどこか悪いところを見つけたのかも・・と不安になって尋ねると、顔をちらりと一瞥してすぐに顔を逸らし、頭をバリバリ掻きながら、いや違う、と言って唸った。

そのまま黙り込んでしまったので、普段聞こえない掛け時計の音がカチカチと耳に届いてきた。

この雰囲気に何だか緊張してしまい、息をつめて見つめていると、ジークははははと笑い声を上げた。


「お前は何を緊張してんだ。体には何も問題はないぞ」


体には、というと他の何かがあるのかしらと再び勘繰ってしまってると、それを察したのか、いや、お前のことじゃないんだ、と言葉を継いだ。


「すまんな――――バル様のこと、許してやってくれないか」

「え・・・?」


何のこと?と聞こうとして、昨日の出来事が頭の中にふわりと浮かび上がった。

あの時の会話を思い出すと、またどうにもむっとしてしまって、口を固く結んでしまう。

虫の居所が悪い原因でもある。

すると、ジークは何かを納得したように小刻みに頷いた。



「ふむ、その様子だと、当たらずとも遠からずってとこか・・・」



・・・俺も案外勘がいいな、と呟きながら聴診器を首から外してテーブルの上に置いたあと、正面に向き直り、さぁ、教えてもらうぞ、とばかりにいつもの優しいダークブラウンの瞳が探るようにまっすぐ見つめてきた。

全部見透かすような、鋭いけれどあたたかい瞳。

ジークと話してるとたまに思うことがある。


お父さんってこんな感じなのかもって。



「昨日、バル様と何かあったんだろう?」


―――あったって言えば、あったけれど・・でも―――


「喧嘩、したのか?」


ジークはゆっくりと丁寧に言葉を切りながら聞いてくる。


「喧嘩は、していません」

「うむ、そうか。・・・実は、昨夜からバル様の様子がおかしくてな。今朝はお前も表情が少し硬いし。だから、二人で喧嘩でもしたのかと思ったんだが。そうか、違うのか―――」




―――あのいらいらした様子は、そうかと思ったんだが―――


ジークは診療器具を鞄に仕舞いながら、再び、うーん・・と唸った。



―――そうでないとしたら。・・・っ、まさか、あれか?

あぁ、いやいやいや、いくら強く想いを寄せておられても、その様に暴走されるお方ではない。

今までも手を出す寸前になられたことは何度かお見かけしたが、理性を総動員して抑えておられた。

第一、そんなことがあれば、俺が問いかけた時に彼女の瞳がもっと激しく揺らぐはずだ。

見たとこ、そんなことはないしな―――