魔王に甘いくちづけを【完】

不安でいっぱいになり、やっぱりきちんと断るべきだったと、悶々とした気持ちになってしまう。

バルが“信じろ”と言ってくれたことを思い出し、今すぐ断りたい気持ちと懸命に折り合いをつけていると、後ろから聞き慣れた声が聞こえてきた。



「―――失礼。そろそろ返していただけますか。何しろ病み上がりなものですから・・・」



足音と一緒にその声はだんだん近づいてきて、さぁ、戻るぞ、とすぐ横に手が差し出された。

その手にそっと捕まって立ちあがると、当たり前のように腰のあたりに手が添えられた。



「あらまぁ、わざわざお迎えに参りましたのね?・・・お優しくて何よりです。では、もう帰さないとならないわね」


王妃が二人を交互に見て満足げに微笑んで立ちあがった。

瞳は心底嬉しそうで、キラキラと輝いている。


「ユリアさん、楽しかったわ。また一緒にお茶して下さいな」

「こちらこそ楽しく過ごさせていただきました。ありがとうございます」


ユリアは膝を折って挨拶をし、名残惜しげな表情を浮かべる王妃を残し、バルに誘導され王妃の宮を後にした。



バルは気遣うようにゆっくりと歩いている。

少し離れて、お付きの侍女が俯き加減でしずしずと着かず離れずの距離を取って着いてきていた。

王妃の住む宮は結構遠くて、部屋まで帰ろうと思うとかなりの時間がかかる。

忙しいだろうにわざわざ送り迎えをしてくれるバルに申し訳なくて、案内できる侍女もいるし、一人で帰れるからお仕事に戻って大丈夫よ、と声をかけようとしていたら先にバルが口を開いた。



「すまんな、王妃はよくお話になるだろう。何しろずっと娘が欲しかったらしく、お前が来たものだから嬉しくてたまらないようなんだ。・・・疲れていないか?」


「いえ、とても楽しい方でした。王子様のことが大好きなようですよ。いろいろ話して下さいました」


「ふむ・・・そうか。で、なんと言っていた?」


「え?王子様のことだもの・・・バルには言えないわ。内緒、よ」


ふふと笑いながら言うと、くるりと顔を向けて見下ろしてきたバルは微妙に困ったような表情をしていた。


「―――ん?俺には言えんとは、どういうことだ?まさか、変なことを聞かされてないだろうな・・・」




唸るような声で、うーん、と呟く声が聞こえる。

どうしてバルが気にするのかしら。

そう思いつつ見上げると、顎に手を当てて何か考えているようだった。