魔王に甘いくちづけを【完】

「はい、ゆっくり休ませていただきましたので、すっかり良くなりました。もう大丈夫です。ありがとうございます」



「そう、良かったこと。でしたら、もう妃教育を始めても宜しいわね?
あの子ったら、貴女の教育や婚約式の日取りや婚儀のスケジュールとかいろいろ相談をしようと話しかけましても、何かと理由を言って逃げていくんですの。自分のことですのに、酷いと思いませんこと?」


「え・・・、あ・・あの、王子様はお忙しいのでしょうから、私の教育の予定は王妃様と私で先に決めましょう。その他のことは、王子様のお仕事が落ち着いてからゆっくりでも宜しいのではないでしょうか」



「そうねぇ・・・でもね、ユリアさん。あの子がせっかく結婚する意思を見せているんですもの。気が変わらないうちに早く、と私、どうしても焦ってしまうのですわ」



王妃はふぅと深い息をついて額に手を当てた。


「・・・まぁ、いいでしょう、ユリアさんの仰る通りにしましょう。あまりに急ぎすぎて却って気を削いでしまうことになりかねませんもの。ね」


そう言うと、ユリアを自席に戻るように促し、目の前のケーキに漸く手を伸ばした。

それを見た侍女がすかさず紅茶のお代わりをカップに注いでいる。



王妃のお話がやっとこひと段落したようなので、ユリアは漸く口を挟むことが出来る。

一つ、聞きたいことがあった。

いくらバルが妃候補だと言ってても、一般の家ならばともかく王子様の嫁となるのだから、身辺調査とか健康であるかとかもろもろ調べてから話を進めるのではないのだろうか。

それを飛ばして、もう決まってるような様子に疑問を持ったのだ。

それに、そうかもしれないというだけで、良家のお嬢様という確証もなく、第一、ただの人間なのにいいのだろうか、とも思っている。



「あの、王妃様、ひとつ確認したいことがあるんですけど、宜しいですか?」


ケーキをつついていた手をピタリと止めたあとフォークを置き、王妃はユリアをじっと見つめた。


「まぁ、なんですの?なんなりとお聞きなさいな」

「・・・王子様のお妃、私でよろしいんですか?私はこの国の者ではないですし・・・」

「まぁまぁまぁ、いけませんわ。貴女、何を仰るのかしら。もちろんよろしいですわ。貴女がいいんですの。いえ、貴女でなければ駄目なんですの。あの子に結婚の決意をさせただけでも立派なことですもの。この機会を逃したら、この先結婚のけの字もあの子の口から出てきませんわ」


王妃の潤んだ美しい瞳がさらにキラリと光りを放ち、ユリアをしっかりととらえた。

決して逃がしませんことよ、と言われた気がして、背中がぞくっと震えた。