魔王に甘いくちづけを【完】

一旦紅茶を口に含み、一息入れてまた話し始める。

どうも話相手が出来たことが嬉しいらしく、王妃の口は暫く止まりそうもない。


「そうそう、こんなこともありましたのよ。

数か月前のことですけれど、3週間以上も帰城しないことがありましたのよ。

珍しく狼の姿でやっとこ帰ってきたと思ったら、無精髭に薄汚い服を着ていて。

思わず問い詰めましたら“人買い組織の潜入捜査をしていた”というではありませんか。

私、気を失いかけましたわ。だってそうでしょう?

世継ぎの王子自らがそんな危険なことするなどと、信じられませんことよ。

そのようなことは、従者にさせればよろしいのに・・・。

まぁ、貴女が妃になってくれれば危険なこともしなくなりましょうけど」




守る者が出来ますものね、とウィンクする王妃に対し、ユリアは驚きの声を上げてオウム返しをした。



「えっ、潜入捜査、ですか?」

「えぇ、あの時は、無事で帰ってくれたことに心底安心して涙を零してしまいましたわ。ま、あの子は飄々としてましたけれど」



―――王子様自らそんなことするだなんて。

かなり行動的な方なんだわ・・・。

というか、かなり無謀な方なのかも。

まだ一度もお会いしてないけれど、どんな方なのかしら・・・。

バルもひどいわ。

顔も知らない方のお妃候補のふりをしろだなんて。

こうして王妃様とお話しすることにドキドキしてしまうじゃない。


バルの顔を見たら、早速会わせてもらえるように頼まなくちゃ。

これでは困ってしまうもの―――



「それでねユリアさん。つい最近のことですわ。

一時帰城したときに、私、絵姿を持っていきましたの。

これを逃してはいつ捕まえられるか分からないんですもの。

しつこく何度も絵姿を渡そうとしましたわ。

そうしたら、何度も何度も“また後に見ますから”と繰り返されて。

こう、追いかけっこのようになりましたの。

私疲れてしまいまして、椅子で休んでいましたわ。

また後で見せればいいと、そう思いましたの。

で、そうしてるうちにすぐにまた出掛けてしまう始末でしょう。

後に見ると言っていたのに、結局見もせずに、しかも私に何の断りもなく、ですのよ?」




許せませんことよ、というように宙を睨みつけ、王妃は手にしたカップをカチャリと音を立ててソーサーの上に置いた。


そうとう立腹したのを思い出したのか、ユリアを見る瞳が細まり据わっているように見える。