魔王に甘いくちづけを【完】

男の子に注目していた瞳を、綺麗な指先に導かれるまま前方に向けると、遥か向こうの方から何かが飛んでくるのが見えた。

それは左右上下に動きまわっていて、時々キラッと光を放ち、遠目にも綺麗な色をしているのが分かる。

注視していると、だんだんと近付くにつれてそれがはっきりとし出した。

上下左右に動いているように見えたのは、一つの個体ではなくいくつもの個体が寄り集まったもので。



「ち、・・・余分な物までくっついてきたな・・」


男の子が悔しげに舌打ちするのを耳にしながら、その美しいものに心を奪われ、心から悲しみの気持ちが薄れていくのが分かった。

ひらひらと舞うように飛んできていたのは、黒地に色とりどりの模様を持つ綺麗な蝶の群れ。

それにくっつくように綺麗な花がくるくる回りながら飛んでいる。

良く見ると、羽をもった小さな人みたいなのも混じっている。


尖った耳に愛くるしいくりっとした瞳。

薄桃色の髪に白い衣を身に着けたそれは、ふわぁ・・と傍に近づいてくると、びっくりして目を丸くしてるのが可笑しかったのか『キャハハハハ』と楽しげに笑った。

その後頭の上をくるくると踊るように飛び回っている。


「なぁに?この子・・・」



上を見上げたまま思わず呟いた。

ちっちゃくて羽がふわふわしててとても綺麗。


「・・・驚いたな。それが見えるんだな・・・。こいつは花の妖精だ」


「ほんと!?妖精さんなの?本当にいるんだぁ・・・可愛い」


「あぁ、良かった。やっと泣きやんだな・・・」


満足げに優しく微笑む男の子に、うん、と笑顔で返したその瞬間、何かに殴られたように体が弾かれ、ぐるぐると視界がまわり、再び何もない白い霧の中に戻された。


意識はそこで、ふ・・と途切れる。



朝になり、「ユリアさん、朝だよっ。起きて!」と、リリィに起こされるまで目覚めることのできなかったユリアは、見たものを慎重に思い返した。


匂い、感触、音、どれをとっても妙に現実感があり、いつもの夢と違っていた。

何より全部はっきりと覚えていた。


―――あの男の子は、一体誰・・・―――


夢とはいえ、何かとても重要な気がして、紙とペンを探して内容を書き留めておいた。


忘れないように―――――・・・