魔王に甘いくちづけを【完】

突然上から降ってきた声に驚いて見上げると、いつの間に横にいたのか、一人の男の子が立っていた。

黒髪に黒い瞳、黒い服。

年上に見えるその男の子は、心配げに見降ろしていた。


黙って首を横に振って涙でぬれた瞳で見上げた。

男の子はどこか悲しげな瞳をしている。

それは自分に似てるような気がして・・・



―――・・・もしかして・・・

もしかして、あなたもわたしと一緒なの?―――


仲間が出来た気がして、涙を拭いながらオズオズと問いかけてみた。


「・・・あなたも、ひとりぼっちなの?」


哀しそうだけどどこか嬉しそうな色を含んだ声色に対し、男の子は一瞬目を見開いていたが、ユリアが黒い服を着ているのに気付き、何を言わんとしてるのか分かった様で慌てて手を横に振った。


「いや、違う。いつもこの服なんだ」

「そう・・・」


まだ涙は止まらず、一度浮かび上がった心が再び沈み込んだ様子に対し、男の子は暫く考え込むようなそぶりを見せ、にこっと笑いながら掌を差し出した。


「おい・・・面白いもん見せてやるよ。こっちに来い」


真っ直ぐに見つめてくるその瞳に魅入られたようになり、手に掴まって立ちあがると、ぎゅっと手を握られた。

立つと丁度目の高さに肩があって、ぼんやりとしているのをぐいぐい引っ張って歩いていく。

その力強さに驚きながらも、何故かとても温かく感じて警戒することも忘れて懸命に後について行った。

男の子は少し開けた草原まで来ると立ち止まり、いいか見てろよ、と言った。


「いいか。これは特別なんだ。今から見ることは、二人だけの秘密だぞ。誰かに言ったら許さないからな」



男の子の色素の薄い唇が動き、脅すような低い声を出した。

子供ながらも、それはとても迫力があって震えてしまう。

優しげだった瞳は細まり、随分怖い顔になっている。

何のことを言ってるのかよく分からないながらも、無言で頭をぶんぶんと縦に振り、大きく頷いて見せると、顔が緩んで柔らかく微笑んだ。

その笑顔に小さな胸がトクンと動いた。



静かにしてろよ、と呟いたあと、両掌を前方に出した男の子の髪がふわふわと揺れ始めた。

体の周りの空気もそれと同じく揺らいでいるように見える。

まるで体の周りにだけ風が吹いているみたいに。

不思議な気持ちで見ていると、息を大きく吐いた男の子が少し弾んだ声を出した。



「ほら、あれだ、見ろよ」