魔王に甘いくちづけを【完】

その夜、ユリアは不思議な場所に入り込んでいた。

――――――「ここは・・・?」

ベッドで眠っていたはずなのに、何も見えない霧の中をさまよっていた。

ここは夢の中なのか何なのか、上も下も分からないような一面の真っ白な世界の中、遠くから小さな声が聞こえてくる。

呼ばれているような気がして、それに誘われるように霧の中を進んでいくと、突然、ぱぁ・・と目映いほどの光に包まれた。

目が痛くて堪らなくなり瞼を閉じると、何かの中に引き込まれるような感覚とともに、さらさらと流れる水の音と、風に揺られて葉がすり合わさるざわざわとした音が聞こえてきた。


恐る恐る目を開けると、背の高い木に囲まれた場所にいることが分かった。

目の前にはきらきらと目映く光る川の水面がある。

そのそばで座り込み、小さな心を震わせて泣いていた。

それは、霧の中で聞こえてきた小さな声に似ている。


途切れ途切れに出す震える声は、自らの唇から洩れでていて。

どうやら、この蹲って泣いている女の子の意識の中に引き込まれているようだった。

女の子の意識がユリアに流れ込んでくる。


それはとても辛くて哀しいものだった。





――――哀しい・・・寂しい・・・誰か、助けて―――――


背後の少し離れたところに、ドアに喪章を掲げた小さな家がある。

喪章はところどころ日に焼けて色が変わっていて、掲げられてかなりの長い日が経っていることが分かる。


どうやら女の子が暮らしている家のよう。

着ているのは黒い服に黒いリボンそれに黒い靴。



「う・・・ひっく・・・うぅ・・っく・・」



―――何でいなくなっちゃったの?

わたしが大きくなるまで傍にいてくれるって言ったじゃない。

おばば様のウソつき・・・

わたし、また、ひとりぼっちになっちゃった・・・。

これからどうしたらいいの?―――


おばば様と二人で暮らしていた家に独りでいると、思い出ばかりが蘇る。

加えて一人ぼっちになってしまった不安と寂しさにとても辛くて堪らなくて、外に出て一人で泣いていた。

もう何日もそんなことを繰り返している。

最初は足しげく様子を見に来ていた近所の人たちも、たまに食べ物を届けに来るくらいで、それ以外は来なくなっていた。


“厄介もの”

“困ったな”


近所の人たちが集まって話してること漏れ聞いたことがある。

意味はよく分からないけど、その声色から良くないことを言ってるんだと、いくら幼くても分かっていた。


わたしはここにいてはいけない子なんだ・・。


でも、どこにいけばいいの?

どうしていいか分からない。

おばば様・・・・。





「おい、何をそんなに泣いてるんだ。・・・どこか痛いのか?」