魔王に甘いくちづけを【完】

ユリアは窓の外を眺めた。

空には月が輝き星がちかちかと瞬いている。


瑠璃の森の中ではこんなに空は見えなかった。

怪我を治すことで精一杯で、他のことを考える余裕もなかった。


でも、ここはこんなに綺麗な空が見える。

だから、どうしても思い出してしまうの。

あの、ルミナの屋敷から見えた空を。


遠い遠い空に思いを馳せてしまう。


ここからルミナまでどのくらい離れてるのかしら。




ラヴル、貴方は今何をしているの?

随分長い間離れてしまってるもの。


きっと、私のことは忘れてしまったわね?

私がこの国のお妃候補になっても構わないほどに。


でも私は、貴方のことをこんなに思っているの。


傍にいる時、意地をはらずに『好き』って伝えれば良かった。

こんなに突然に、何の前触れもなく、貴方と離れるなんて思ってもいなかったもの。



目を瞑ると思い出す


妖艶な微笑み

腕に抱かれたときのぬくもり

貴方の低い声



もう二度と会う事が出来ないの?


貴方の声を聞くことが出来ないの?







窓の外にはラッツィオの空。

王都、国一番に栄えた街。

長い城壁の向こうに、小さな瞬きがいくつも見える。

国の人が生活している灯り。



これはこれで綺麗だけど、私が見たいのはこの景色じゃない。

ここは水面が見えない。

水面を渡った爽やかな風がない。

サワサワと揺れる庭木の音も聞こえない。


ライキののんびりした声も、ツバキの元気な声も、ナーダの抑揚のない声も、何もない。

それに、何より、ラヴル、貴方の声が聞こえない―――――