魔王に甘いくちづけを【完】

初めてのピクニック。

楽しげな話声と不機嫌そうな声。

他愛のないお喋り、コロコロと響く笑い声。

穏やかなまったりとした時が流れ、お腹の虫が主張を始めた頃。

ザキが包みを開けてお弁当を広げた。

ジークの家のコックが作ったお弁当。

5個もある箱の中に、色彩豊かに作られたおかずがぎゅうぎゅうに詰められている。

蓋つきの籠の中には柔らかいパン。

久しぶりに長い時間体を動かしたユリアはお腹がペコペコだった。

美味しくないはずがない。

大量にあった箱の中身は、三人してぺろりと平らげてしまった。


すっかり満腹になったお腹を苦しげに摩っていると「腹ごなしに歩くぞ」とザキが言いだしたので、ユリアは丁重に断った。

帰りもたくさん歩くのだ。

体力を温存しておかないといけない。



リリィは少し離れたところで蜜を吸ってる蝶を見つめている。

そのリリィにザキが近づき話しかけていた。

それが、何やら言い争いになり始めた。

耳をすまして聞いていると、ザキがどうしても泉を見せたいと迫ってて、リリィは「ユリアさんが一人になっちゃうから」と言って渋っていた。

リリィは困ってはいたけれど、その言葉の影に“行きたい”という気持ちが見えた様な気がした。



「リリィ、私は平気だから行ってくるといいわ」



でも・・・、と渋っているリリィの手を強引に握り、ザキが引きずるようにして連れていった。

それを笑顔で手を振り見送ると、リリィも笑顔で手を振り返してきた。


「ゆっくりしてきてね・・・」呟き、視線を草原に戻す。



賑やかな二人がいなくなり、草原を渡る風の音と鳥の囀りだけの時が訪れた。

こうして何も考えず一人の時間を楽しむのもいいものだ。



―――なんて気持ちいいのかしら―――



目を閉じて森の空気を胸いっぱいに吸い込んだ。

優しい風が頬を撫で、花の香りがふわりと鼻をくすぐる。

まるで、森の空気に体を包まれたような感覚になる。

なんだか森に祝福されてるみたい。



“治って良かったね”って。






・・・サク・・・サク・・・




幸せな気持ちにひたっていると、草を踏みしめる音が耳に届いた。



―――――?早いわね。

リリィたち、もう帰って来たのかしら・・・。




「探したぞ・・・ここにいたのか」