魔王に甘いくちづけを【完】

「ごめんなさい・・・背負う必要がないよう、私頑張るわ・・・」

「っ・・・べつにいいけど・・・早く行こうぜ」



少しばつの悪そうな顔になるザキ。

本当に嘘がつけない人・・・。

いつも不機嫌そうでぶっきらぼうだけど、性格はまっすぐで一途なんだわ。

この人なら、リリィを幸せにしてくれそう。

リリィは、どう思ってるのかしら・・・。



手を引きながら前を歩いているリリィを見る。


優しくて明るくて、いつも一生懸命なリリィ。

幸せになって欲しいと、心から思う。



「リリィ、大好きよ。いつもありがとう」

「え??ユリアさん、どうしたの?急に・・・。私も、ユリアさんが大好きだよ」



思わず出た言葉を聞いて、リリィが振り返ってはにかむように笑った。

ジークの家を出て、かなりの時が経った。

目的地にはまだ着かないのか、相当な距離を歩いているように感じる。

次第に足の痛みが増してきた。



―――やっぱり遠出は無謀だったかしら。

ジークの言う通りにしてれば良かったかも。

やっぱり、お医者様の言うことはきちんと聞くべきね・・・。



と反省しかけた頃、リリィが嬉しそうな声を上げた。



「ほら!ユリアさん、着いたわ。ここよ!見て!」



満面の笑顔で振り返ったリリィの体の向こうに、その草原はあった。

何度も話に聞いていた場所。

やっと辿り着いたという達成感と湧きあがる感動で、瞳に涙が滲む。

口から零れ出たのはありふれた言葉だった。


「・・・すてき・・・」

「でしょ?今が見頃なんだって。ね、綺麗でしょ?」

「ほんと・・・」



あまりにも素晴らしくて美しくて言葉にならない。

一面に咲き誇る花。

純白と薄紅色と濃桃色の花が見事にグラデーションを描き、その上を瑠璃色の蝶がひらひらと舞っている。

澄み渡った青い空と周りを囲む緑の木々が額縁となり、それはまるで神が描いた絵のよう。



「本当は夜に来た方がいいみたいなんだけど、ユリアさんにはまだ無理だから・・・」


見惚れたままぼんやりと立っていると、不機嫌そうな声が聞こえてきた。


「おい、こっちに来て座れ。まず、休憩した方がいいんだろ」


声の方を向くと、いつの間に準備したのか平らな場所に敷物が敷かれていた。

座り込むとリリィが靴を脱いだ方がいいわ、と言って脱がしてくれた。

ジンジンと痛む足がすーと楽になる。


「ありがとう、リリィ」


一息ついていると、ザキがガサゴソと包みの中を弄り、小瓶を取りだした。



「これ、痛み止めだ。着いたら飲ませろって、ジークに言われた」



ぶっきらぼうに、ん、と差し出された薬湯を受け取り、口に含む。

相変わらずの苦みに顔を顰めた。

効くのは良いけれど、もっと美味しいと良いのに。