魔王に甘いくちづけを【完】

「ご主人様・・・・これは・・・・」


「あぁ。そうだな・・・頼むぞ」


「お任せ下さい!この私、声の大きさだけは誰にも負けませんから!」


従者は自慢気に胸を張って主人を見た。

主人はそんな従者の様子を見てクスッと笑った。





「よーし、あの娘は私が頂く!見ろ、あの柔らかくて美味しそうな肌を―――あのうなじ・・・堪らんなぁ。この俺が、嫌というほど毎晩可愛がってやる。こりゃぁ楽しみだ」



太った好色そうな男が涎を垂らさんばかりに、スクリーンの中の娘を見ていた。

スクリーンには娘の白く綺麗なうなじが映され、カメラが這うように胸から腰、足のつま先までゆっくりと移動するように映していた。

服の上からでも娘の美しさが想像され、無くなりかけていた客の購買意欲が掻き立てられていく。



「どうでしょうか皆さん、これでも帰ると仰いますか!?」



身支度を始めていた客たちが席に戻り、ウェイターから飲み物を貰っている。

帰ろうと揉めていた、あの女性客も席に戻っていった。




「よし、いいぞ。客達の気持ちが戻った」


カーテンの向こうを見ていた男がホッとしたような声を出した。


「お前は実に素晴らしい目玉商品だよ」


カメラを構えていた男が獰猛な笑みを浮かべて娘の顔を除き込んだ。

娘は俯いたまま唇を噛み締めていた。

カメラが、ふっくらとした娘の胸元と綺麗なうなじを、執拗に舐めるように捕らえている。

隠したくても両手を縛られてしまっていては、どうにも出来ない。

先程から繰り返される羞恥に娘は必至に耐えていた。



「よし・・・その美しい顔も見せてやれよ。値が上がるぜ?」


脇に立っている小柄な男がニヤニヤしながら言った。

カメラを持っていた男の手が、俯く娘の小さな顎に向かって伸ばされてくる。

その手を避けるように、できるだけ後退った。

もともと壁に近い場所に座っていたため、逃げようにもあまりスペースがない。

男の手がいやらしく伸びてくる。



「嫌――!やめて。触らないで!」



「おい!もうやめろ!商品に触るな。お前らはもういい、カメラを仕舞って持ち場に戻れ」


青いカーテンの傍に居た男が怒鳴ると、娘の目の前に居た男はカメラを下ろして小さく舌打ちをした。

隣に立っている小柄な男も気に入らない顔をして、自分を注意した男を睨みつけた。



「あぁ、わかったよ」



吐き捨てるように呟くと男たちは娘の前から遠ざかっていった。