魔王に甘いくちづけを【完】

近づくにつれ焦げた匂いが強くなっていき、心の中が嫌な予感で満たされていく。

この向こうに、どんな光景が広がっているのか。

先を走っていたザキのスピードが弱まり、立ち止まってしまった。

どうやらそれ以上は進めない何かがあるようだ。



「っ・・・ジーク、何だよ、これ・・・」


ザキが呆けたように呟き絶句した。

ジークもザキの横に並び、言葉を失った。

年甲斐もなく総身が震え、ぞわぞわと肌が毛羽立ち、立ち竦む。

ザキはよろめきながらもゆっくりと足を運び、森の外に出た。

後に続き、ジークもそろそろと外に出る。

踏まれた焦げた木の枝がパキンと折れ、黒い煤が舞い散った。

思わず手近にあった炭と化した木を拾うと、ボロボロと崩れ粉が空に舞った。



「これは・・・跡形もないとは・・・。瑠璃の森はこんなのを止めたのか・・・」


前方はあまり変わっていないが、問題は森の両サイド。

瑠璃の森だけを残し周りにあった木や小さな物置小屋が全て焼けて無くなっていた。

草一本生えていない焼け焦げた荒野が四つの瞳に映る。

あまりにもすっきりと何もないため、遠くにあるロゥヴェルとの国境の街が見えるようになった。

陽炎のように家並みが見える。



「・・何もねぇな・・・・」


前方は綺麗な扇形に緑を残し、あとは焼けている。

おい、ここに何があった?と誰彼なく問い掛けたくなる有り様に、再び恐怖心が湧き震える。



「まわりに・・・誰も住んでないのが救いだったな・・・」



瑠璃の森がいかに外の力から遮断されているか、改めて実感する。

この森に数年住まわせてもらっているが、実際のところ、森の正体は誰にも分かっていない。



―――ただの森ではないとは知っていたが。

もしかしたら、俺たちはとんでもないところに住んでるのかもしれんな・・・。

しかし、この有り様は・・・。

これはリリィたちには内緒にしとかにゃならんな。

言えば、怖がらせるだけだ―――



「ザキ、二人には絶対言うなよ」


「あぁ、分かってるさ」



ジークとザキは努めて明るい顔を作り、とりとめのない話をしながら家へ戻った。

二人に沈んだ顔を見せないように。

気取られないようにするために―――――――








ジークたちが森の中へ戻った後、・・パキン・・・と小さな音がした。

燃え屑を二本の脚が踏んだ音だ。

その脚の主は思案気に森の様子を確認し、唸るように呟いた。



「やはり来ていたか・・・コレを弾くと言うのか・・・」



もう一度周りを見渡し、暫く佇んだ後、踵を返し去っていった。

その顔に不敵な笑みを浮かべながら――――