魔王に甘いくちづけを【完】

ラヴルが瑠璃の森の意思と向き合っている頃。

森の中では、普段通りの時が流れていた。

ユリアは再び体を起して貰い、リリィとお喋りを楽しんでいた。



「―――・・・でね、その時、ザキが来てくれて届かない場所の花を取ってくれたの。ほらこれよ、綺麗でしょ?」


リリィが白い花を花瓶に挿しながら楽しげに話す。


「これはね、崖にしか咲かないんだって。だから貴重だぞ、俺以外は取ってあげられねぇからな、絶対他の奴に頼むんじゃねぇぞって言うの。しかもこ~んな真剣な顔して。お花取るだけなのに、おかしいでしょ?」


おどけたようにザキの顔真似をして見せたあと、はにかむようにふふふと笑い、リリィはベッド脇のサイドテーブルの上に花瓶を置いた。

ユリアの瞳に、花弁が幾重にも重なったダリアのような花が映る。



「素敵・・・。綺麗だわ、何ていう名前なのかしら。ありがとう、リリィ。・・・ザキはリリィには優しいのね?」




いつもめんどくさげにぶつぶつ言いながら不機嫌そうにしている印象しかない。

そのザキが、リリィにだけは豆に世話を焼いているようだった。

話を聞くたびに、たっぷりの愛情を感じてしまう。

リリィは気付いてるのかしら?




「えっ!?そんなこと・・そんなことないわよ」


真っ赤になって慌てて否定するリリィを、ユリアは微笑みながら見つめた。

・・・少しは感じてるのかしら・・・可愛いわ。



二人の会話を無言で聞いていたジークが、フと動きを止め、リリィの顔をまじまじと見た。



「おいおい、リリィ。まさかお前、ザキに変なことされてないだろうな?嫌だったらちゃんと言えよ?」

「え?ジークさん、変なことって、なぁに??」



心底分からない様子のリリィ、キョトンとした表情でジークを見た。

ジークは掌をひらひらと振りながら笑う。

この様子なら大丈夫だろうと、そう思ったのだ。



「あぁ・・・何でもない。すまん、気にしなくていい」



ザキの奴結構奥手だな、とリリィに聞こえないようにもそっと呟き、ジークは窓の外を眺めた。

ダークブラウンの瞳が、森の奥のそのまた先を見つめる。

実は、一刻前ほどから、ジークは只ならぬ気配を感じ取っていた。

耳がぴくぴくとせわしなく動き、遠くに聞こえる音を拾う。

何かとてつもない力が森を襲っている。

バタンと乱暴にドアを開け、ザキが部屋に飛び込んできてジークの横に並んだ。




「ジーク、こりゃ一体何だ?」