そう言うと、ツバキの顔が一気に晴れやかなものになった。
握り締めていた拳が開かれていく。
ラヴルは、変わらない表情のままバルをじっと見ている。
だが、発した次の一言でその表情が瞬時に変わった。
「だが、貴方様には連れて帰ることは、出来ない」
「なっ!何言ってんだ!ラヴル様に出来ないことは、何もないぞ!まさか、返さない気なんか!?」
ゴゥと炎を出し、今にも飛びかからんばかりの勢いのツバキを手で制し、ラヴルはバルを見据えた。
漆黒の瞳が見る間に赤みがかっていき、どんどん濃くなっていく。
「――――何故だ」
低く唸るように発せられた声と射るように見据えてくる瞳は、事と次第によっては容赦をしない、と暗に語っている。
対抗しようにも圧倒的な力の差を感じ、バルの肌がぞくりと粟立つ。
「待った。落ち着いてくれ。酷い怪我をしてるんだ。ルミナまでは遠い。移動させるのは、とても無理だろう」
「怪我ならラヴル様が治せるんだ!そこに行って―――」
興奮したツバキが一歩前に出た。
それをバルの鋭い声が遮る。
「それは無理だ!」
「バルリーク、何故そう言い切れる」
「瑠璃の森に、居られるからだ。瑠璃の意思が貴方様方を拒否し、立ち入ることを許さないだろう」
「うむ、瑠璃の森、か―――――――バルリーク、怪我はそれほどに酷いのか」
「あぁ、だが心配するな。我が国きっての名医が治療しているんだ。それに瑠璃の泉もある。泉の水は治癒力を高めるんだ。きっとすぐに治る」
「・・・・感謝する」
「ラヴル様・・・どうしますか」
ラヴルは腕を組み瞑目した。
体の周りの空気が揺らぎ熱を持っているように見える。
頭の中で想いと状況がせめぎ合い、どうしようもない状態を冷静な理性が懸命に折り合いをつけているのだろう。
暫くすると熱を持った揺らぎが収まり、ゆっくりと瞼を開けた。
「――――バルリーク、急に邪魔して悪かった。ツバキ、行くぞ」
「は・・はい!ラヴル様っ」
ラヴルは立ち上がり、すぐ傍にある窓を開け放ち空を見上げた。
「――――来い、ヴィーラ」
静かな呼び声のあと、翼竜のものであろう羽の音が近づいてくる。
それは上から来るのか、上階から女性の叫び声が上がり空に木霊している。
窓の外に大きな足が見え、白い毛並みが見え、そして、ぎょろりと動く大きな瞳が見えた。
ラヴルの姿を見止めると、体をくるりと横に向け、主人が乗り易いよう窓の外で上下しながら浮かんでいる。
「ここから、帰るのか?」
「あぁ、急いでいるのでな・・・バルリーク、失礼する」
ひらりと窓からヴィーラの背中に乗り移り、行けヴィーラと命じ、風のように飛び去っていった。
握り締めていた拳が開かれていく。
ラヴルは、変わらない表情のままバルをじっと見ている。
だが、発した次の一言でその表情が瞬時に変わった。
「だが、貴方様には連れて帰ることは、出来ない」
「なっ!何言ってんだ!ラヴル様に出来ないことは、何もないぞ!まさか、返さない気なんか!?」
ゴゥと炎を出し、今にも飛びかからんばかりの勢いのツバキを手で制し、ラヴルはバルを見据えた。
漆黒の瞳が見る間に赤みがかっていき、どんどん濃くなっていく。
「――――何故だ」
低く唸るように発せられた声と射るように見据えてくる瞳は、事と次第によっては容赦をしない、と暗に語っている。
対抗しようにも圧倒的な力の差を感じ、バルの肌がぞくりと粟立つ。
「待った。落ち着いてくれ。酷い怪我をしてるんだ。ルミナまでは遠い。移動させるのは、とても無理だろう」
「怪我ならラヴル様が治せるんだ!そこに行って―――」
興奮したツバキが一歩前に出た。
それをバルの鋭い声が遮る。
「それは無理だ!」
「バルリーク、何故そう言い切れる」
「瑠璃の森に、居られるからだ。瑠璃の意思が貴方様方を拒否し、立ち入ることを許さないだろう」
「うむ、瑠璃の森、か―――――――バルリーク、怪我はそれほどに酷いのか」
「あぁ、だが心配するな。我が国きっての名医が治療しているんだ。それに瑠璃の泉もある。泉の水は治癒力を高めるんだ。きっとすぐに治る」
「・・・・感謝する」
「ラヴル様・・・どうしますか」
ラヴルは腕を組み瞑目した。
体の周りの空気が揺らぎ熱を持っているように見える。
頭の中で想いと状況がせめぎ合い、どうしようもない状態を冷静な理性が懸命に折り合いをつけているのだろう。
暫くすると熱を持った揺らぎが収まり、ゆっくりと瞼を開けた。
「――――バルリーク、急に邪魔して悪かった。ツバキ、行くぞ」
「は・・はい!ラヴル様っ」
ラヴルは立ち上がり、すぐ傍にある窓を開け放ち空を見上げた。
「――――来い、ヴィーラ」
静かな呼び声のあと、翼竜のものであろう羽の音が近づいてくる。
それは上から来るのか、上階から女性の叫び声が上がり空に木霊している。
窓の外に大きな足が見え、白い毛並みが見え、そして、ぎょろりと動く大きな瞳が見えた。
ラヴルの姿を見止めると、体をくるりと横に向け、主人が乗り易いよう窓の外で上下しながら浮かんでいる。
「ここから、帰るのか?」
「あぁ、急いでいるのでな・・・バルリーク、失礼する」
ひらりと窓からヴィーラの背中に乗り移り、行けヴィーラと命じ、風のように飛び去っていった。


