魔王に甘いくちづけを【完】

ラヴルに窘められツバキの炎が消えていく。

バルは瞳をブラウンの色に戻し、ラヴルに向き直った。



「・・・連れが失礼した」

「いや――――変わらずに元気そうだ。で・・・用とは?」



そう問いかけると、ラヴルはひじ掛けに預けていた手を顎に当てた。

無言のまま数分の時が過ぎる。

瞳はバルを見据えたままだが、心はどこか遠くに行っているようだ。

やがて短く息を吐く音がし、色素の薄い唇が動かされ静かな声を出した。



「バルリーク。貴様、会っているだろう」

「・・・は?会っているとは、一体何のことだ?」



何となく見当はついていたが、バルはあえて首を傾げ訝しげな声を出した。

目の前の、感情の読めない顔を見つめる。



「荒れ屋敷の会場にいた時、狼の遠吠えを聞いた。あの声は、貴様のはずだ」


後ろにいるツバキが、あ、と声を漏らした。




―――ふむ、あの時のことか。

俺だと、分かっていたのか―――



言いたいこと、ここに来た理由を、瞬時に理解し慎重に言葉を返す。




「・・・・・、そうだと、したら?」


「私は人を探している。あのとき貴様が会った娘だ。――――覚えていないとは、言わせん」

「・・・・あぁ、確かに、覚えている。黒髪の美しい娘だった」

「・・・・この国にいるはずだ。貴様、知っているだろう」

「――――知らない、と言ったらどうする」




ラヴルの確信のこもった声。

何故だろう・・・不思議に思う。

その考えに至った原因はどこにあるのかと思い、逆に問いかけた。

すると唇が微かに歪み口角を上げた。




「いや、貴様は知っている。何処にいる。私のモノだ。返して貰おうか」



ますます声は強まり漆黒の瞳は強い光を放つ。




―――もしや、残り香が香るのか。

あの花の甘い香りに混じり、分からないだろうと思ったが―――



答えを待ち、無言で見据えてくる漆黒の瞳。

何か言うまで動かないだろう。

ツバキをちらと見やれば、感情の読めないもの静かな主人と反し、その感情がすぐに見てとれた。

唇をぎゅっと結び拳を握り締め、湧きあがる激情と闘っているようだった。




・・・・・もうこれ以上は誤魔化せんな――――

誤魔化せばこの場で一戦交える事態になりかねん。


バルは背もたれに体を埋め、両掌をラヴルの前に差し出してヒラヒラと振った。



「・・・貴方様がお探しのお方は、確かに、この国におられる。赤毛の女の子、リリィも一緒だ」