魔王に甘いくちづけを【完】

「―――でも、俺、間違ったこと言ってるつもりはねぇっすよ」

「・・・・・」

「・・・貴方様がいいってんなら、仕方ねぇけど。コレだけは覚えておいて下さい。俺は、貴方様のためなら何でもするってことを。その気になったらいつでも言って下さい」



あ、ジークも同様っすよ、と言葉を継ぎながらザキは立ち上がって服についたほこりを払い、籠を持った。

その動きを止め、籠の中を不思議そうに眺める。


「――ん?・・・俺、いつのまにこんなに草取った?」


すっかり土がむき出しになり草一本なくきれいになった足元と、大量に草が入っている籠の中を見て首を傾げた。

そして、しまった、こんな草取りするはずじゃねぇのに、と唸るようにぶつぶつ言いながらザキはバルから離れていく。

だるそうに引きずるような足音が遠ざかっていき、バルは息を吐きつつ天を仰ぎ見た。

瑞々しく葉の茂った枝の隙間から見える青い空が、金色に光る瞳に映る。

流れる白い雲の下を二羽の鳥が仲良く飛んでいく、平和な森の空。


「全く、ザキの奴・・・・お節介にも程があるぞ」


そう呟いた一瞬後のこと。

程良い厚みの、形のいい唇がキュッと結ばれ、微かな物音に反応した耳がピクッと動いた。

誰かが近付いてきている。

視線を下げると見なれた人物が跪いている姿が目に映った。

それは普段なら影のように傍に控えている者で。

今この場にはいないはずの者。



―――全くなんて日だ。

落ち着きたいのに、一人になることが出来んとは―――



「――――何の用だ。俺が呼ぶまで、ここには来るなと言っておいただろう」


バルは跪いた姿を観察するように眺めた。

ザキが去ったあとすぐに現れたということは、さっきの話を聞いていただろうに。

少なくとも今、普通の精神状態ではないことは分かってるはずだ。

なのに、この男は冷静に眉一つ動かさず無表情のままでいる。

どんな時でも動じず冷静沈着。

こういうとこが、最も信頼を寄せ側近として置いている要因のひとつでもあった。

肩まで伸びたダークブラウンの髪を一つに束ねたこの男は、側近中の側近、アリだ。



「申し訳ありません。ですが、緊急な事で御座いまして。マークベン様より伝言をお預かりいたしております」



思わぬ名前を聞いてバルの双眉が上がり、木にもたれさせていた体を起こした。