魔王に甘いくちづけを【完】

背後から微かな足音が耳に届く。

瞳を閉じていても分かる。

この、だるそうに引き摺るような足音は、ザキだ。



「・・・ザキ、か」

「・・・っ!あぁ、びっくりした――――何してんですか。こんなところに座り込んで」



予想外の場所から声をかけられ驚き一歩飛び退いたあと、ザキはゆっくり歩み寄ってバルを見下ろした。


「ちょっと、な・・・」


閉じていた瞳が開かれ、木漏れ日を受けてキラキラと光る。

それを見たザキは、バルの隣に腰を下ろした。



「何があったんすか。目、金色になってますよ」



ザキの問いに対しバルは、まだ治らんか、と言って唸りながら再び掌で瞳を隠した。

ザキは足もとの草を引っこ抜きながら、様子を窺うようにチラチラとバルを見た。



「俺でよけりゃ、いくらでも聞きますぜ。これでも口は軽くねぇっすよ」



バルは瞳から手を離し、無言のまま自分の手と腕を見つめた。

手を握ったり開いたり、まるで自分の意思で動くかどうか確認するように、何度か動かす。

やがて息を一つ吐いて唇を歪めた後、ザキを見た。



「まさか、お前に気遣われる日がくるとはな・・・何でもない、気にするな。―――――それよりもだ。ザキ、さっき見たぞ。随分リリィと仲がいいんだな?」


「――――っ、見てたんすか」



いきなりザキの手のスピードが速まり、片手だったのが両手になり、足元の草がどんどん引っこ抜かれていく。

珍しく動揺しているのか、ハスキーな声が少し上ずっていた。



「リリィはいい娘だ、俺は反対しないぞ?」

「や、反対しないって、一体どういう意味っすか」


手を止めて振り向くザキのダークブラウンの瞳に、意味ありげににんまりと笑うバルの顔が映る。

さっきまで金だった瞳の色は、すでに落ち着いたブラウンに戻っている。



「あ・・・いやいやいやいや、何言ってんすか!・・俺こそ、何でもねぇですよ。―――――アイツは・・・妹みたいなもんです」



足元に山となった草を手際良く纏め、籠の中にポイポイと放りこんでいく。

そして再び草を引っこ抜き始めた。

柔らかく生い茂っている草がどんどんなくなっていき、土が露わになっていく。



「・・・アイツは・・・いつも平気そうな顔してっけど、違うんすよ。――――アイツは、すげぇ無理してんですよ・・・」