魔王に甘いくちづけを【完】

「よし、これでいいな。うん、大分治ってきたぞ・・・・どうだ、痛くないか?気をつけて・・・そう、ゆっくりだ―――」


起きてみたい、と言ったユリアに対しジークが怪我の様子を確認したあと、体をそろそろと起こしてくれた。

寝てばかりいた体は平衡感覚がおかしくなっているのか、少しふわふわと揺れる感じがした。


「ありがとうございます・・・平気です」


起こしたままずっと支えてくれている腕を遠慮しつつ押すと、ジークはそっと腕を離して治療器具を片付け始めた。

少しふらつく体を自力で支えようと力を入れてなんとか背筋を伸ばすも、衰えた筋力がそうさせてくれない。

一分もたたないうちに疲れてしまい、前のめりに倒れ込んでいく。


折れている方の腕で咄嗟に支えようとしたら


「・・っ、無理をするんじゃない」

焦った声がし、背中側にクッションをあてがわれ肩を押されてそっと倒された。


延びている腕の先を見ると、いつの間に来ていたのか、バルが眉根を寄せて立っていた。

厳しい光を持ったブラウンの瞳が、机に向かって立っている広い背中に向けられる。



「ジーク、無責任に離れるな」

「すみません、バル様がこちらに来られたのが分かったもんですから――――・・・お任せした方がいいと・・・そう、思いまして」


ジークはピンセットを消毒液の中に突っ込み、バルの顔を眺めてにんまりと笑った。


「せめて一声かけろ。焦っただろう」

「あ、バル、ありがとう―――もう平気よ」


肩を掴んだままの大きな手をやんわりと退けた。

押した方の手はすぐに離れたけど、もう片方の手は肩を掴んだままだ。


「いいのか?本当に平気なんだな?」


そう言って何度も確認したあと、やっと手を離してくれた。

相変わらずなことに苦笑してしまう。

ここ数日、バルと接していて一つ分かったことがあった。


それは、バルはとても心配性だということ。

少しでも顔をしかめたり、痛くて声を漏らしたりすると、ジークが治療してる途中でも、すかさず「何処が痛い」とか「大丈夫か」とか聞いてくる。

そのたびに治療が止まるので、ジークが「バル様はお下がりください。というか部屋から出てください」と窘めている。



「そんなに気にしなくてもいいのに。大丈夫よ。あまり心配しないで」

と言ったんだけど、そうしたら。


「俺は心配してるんじゃない。気を配っているだけだ。お前は怪我をしてるんだぞ。俺に遠慮するな。何でも言ってくれ」



一般的にはそれが心配してるって言うんだけど、バルにとっては違うらしい。

あれから食事の介助もずっとバルがしてくれていた。