魔王に甘いくちづけを【完】

ドアがゆっくりと開き、リリィが顔をのぞかせる。

困ったような表情でバルを見ていた。


「あ・・ごめんなさい、バルさん。お話を邪魔するつもりはなくて。ユリアさんに食事をって、ジークさんに言われて持ってきたの」


バルはホッとしたのか、肩を落とし穏やかな顔で微笑み、入口で立ったままのリリィに近付いた。


「驚かせてすまんな・・・」


ブラウンの瞳から出る悪戯っこい視線が、小さな手に持たれたトレイに注がれる。


「・・・それを食べさせるんだな?」

「はい。ユリアさん、まだ一人で食べられないから・・・だから、入ってもいいでしょ?」

「・・・俺がやろう。リリィは休んでていいぞ」


差し出された大きな手を見て、リリィは「え?バルさんが?」と呟きながらにこにこと笑う顔と食事を乗せたトレイを交互に見た。



―――確か、ジークさんはこの国の偉い人だって言ってて。

そんな人にそんなことをさせていいの?

というか、バルさんはユリアさんの世話をしたいの??



リリィは渡すべきかどうか迷っていた。

その迷いを感じ取り、バルはクスと笑いを漏らし、リリィに視線を合わせるため少し屈んだ。



「そっか、リリィはジークの言ったことを気にしてるんだな?それだったら、無用な心配だ。ここにいるのは、ただのバルだ。安心しろ、誰も咎めはしないから」


「・・・?はい・・・でも、ユリアさんは私がお世話しなくちゃ。でないと、ラヴル様に―――」


「叱られるというのか?黙ってりゃわからん―――いいから、渡してくれ」



バルは眉を上げ、強引にトレイを奪った。

リリィの口が声にならない叫び声を上げ、細い腕が上に向かっていくトレイを追いかける。

バルは手にしたそれを届かないようさらに上にあげ、にんまりと笑いながら「閉めるぞ」と断り、呆然としたリリィを廊下に残しドアを閉めた。


『え、ちょっと、バルさんっ・・・ユリアさんっ』


叫ぶリリィの声が聞こえるが、無視するようにスタスタとベッドに歩み寄り、サイドテーブルの上にトレイを乗せた。

ほわほわと湯気を上げるそれを見、まだ熱そうだな、と呟きつつカチャカチャとスプーンの音をたてる。

その表情はとても楽しげだ。

ユリアもリリィと同様に戸惑いの色を浮かべてバルをみていた。



「そんな不安そうな顔をするな。・・・一度、やってみたいと思っていたんだ。起きられる―――はずもないか。よし、そのまま口を開けて待ってろ」