魔王に甘いくちづけを【完】

バルの瞳をじっと見つめる。


「訳を教えてって言っても、無理みたいね?」

「すまない。聞いておいて勝手だと思うだろうが・・・。言えるようになったら話す」


そうなるといいんだがな、と漏らした小さな呟きは、無機質な天井を見つめるユリアの耳には届かなかった。



「誰にも言わないと、バルの心の中だけで止めておくと、約束してくれますか・・・」

「あぁ、約束する。牙をかけてもいい」

「え・・?牙??」

「俺たち一族にとって、牙は力の源であり誇りなんだ。約束を違えたら、この牙を折ろう」

「牙を折ったら、もう、変身出来ないの?」

「変身は出来る。だが、牙をなくした者は理性のないただの狼となって際限なく暴れまわるんだ。物を壊し仲間を襲い―――女を犯す。だから、牙をなくした者は、掟によって粛清されることになる。俺は、その牙を、かける」




―――それほどまでして聞きたいなんて。


ユリアは天井を見ながら、分かりました、と呟いた。



今でもはっきりと思い出す、どんどん上がる声に怯えていた、あの時のことを。

誰の元に行くのか、どんな扱いを受けるのか、不安でたまらなかった。

もしあの時、他の方の元に行ってたのなら、私は今頃どうなっていたのかしら。




ラヴル・・・貴方は今どうしているの?

心配、してくれてる?

それとも・・・もう、他の方と・・・。

ラヴルの周りには素敵な方がたくさんいるもの。

もしそうなっていたとしても、私には咎めることなんてできない。


この黒い天井・・・ラヴルの髪の色に似てるわ。


ラヴルの妖艶な微笑みが浮かぶ。


貴方の声が聞きたい・・・。


私、貴方に会いたい―――




「・・・1000、です・・・あのとき最終的についた価格は、1000でした」

「――――っ!・・・・1000、か――――本当か・・・」



声を失った後、一時置いて愕然とした声を出すバル。

見開いた瞳は金色の輝きを失い、普段の落ち着いた色に戻っている。



「はい・・・あの・・・あの時、会場の皆さんも驚いてたわ。そんなに高額なんですか?」

「―――高額、なんてもんじゃない・・・そうか・・・それほどに、ということか―――――」



バルは唸りながらベッドの上に肘をつき、組んだ手の上に再び顔を埋めた。

深い深い溜息が吐かれ脱力した声を出す。



「・・・もう一つ聞きたかったんだが、今はやめておく・・・・」



そう言ったバルの耳がぴくんと動いた。

と同時に、がばっと頭を起こしドアの方を振り返り見た。



「―――誰だ!?」


短く発せられた鋭さを持った声は、ドアの向こうにいるであろう人物に向かっていた。