「それはそうと、お前は人間だろう?お前のような人間の娘が何でこの国にいるんだ?それも覚えていなのか?」
そう聞いてくるバルのブラウンの瞳が、徐々に金色に変わりつつあった。
「わからないんです。何も・・・ただ、街を歩いていたことは覚えてるんですけど。気が付いたらこの人達に捕まってて」
「そうか・・・食い物のお礼に一緒に逃がしてやりたいが、生憎、この警備の厳しさでは自分の身を守るのが精いっぱいだ。すまないな」
バルは申し訳なさそうに言うと、金色の瞳をギラリと輝かせながら体を蹲らせた。
部屋の中では黒服の男が娘たちの前を通り過ぎ、次の出番の者を連れていくところだった。
「いいんです。あなただけでも逃げて下さい。私は逃げても、行くところがありませんし・・・」
「そうか、すまんな・・・いい奴のとこに行けるといいな。俺が無事にここを出られて、お前が無事でいることが分かれば、いつか必ず恩を返しに行く」
バルは呟くように言うと、四つん這いになった。
床についた手の指が見る間に狼の脚のようになっていき、鋭い爪がにょきにょきと伸び、体の方にも毛が生えてきて、やがて狼そのものの風貌になった。
気持よさげに遠吠えをしたあと、娘をもう一度見つめて挨拶するように瞬きを2回し、えんじ色のカーテンに向かって走った。
風のような速さでカーテンを潜り抜け、廊下を疾駆していく。
会場の方では、バルの遠吠えが聞こえたのか、怯えた客たちが騒然としていた。
廊下ではえんじ色のカーテンの側にいた黒服が、逃げていく狼の後ろ姿を見て、呆気にとられていた。
「何だ!?あの狼は!?」
「おいあれ、狼男じゃないのか!?」
「まさか!?あいつ、月が見えなくても変身出来るのか?」
部屋の入口で目を見開いていた黒服の男が、ハッと我に帰りバルが走り去った方に向かって叫んだ。
「おい!狼男が逃げたぞ!!――そいつを逃がすな!」
娘が固唾を飲んでバルの走り去った方を見つめていると、廊下の方で黒服達の叫ぶ声と何かが倒れたような大きな物音が聞こえてきた。
慌てふためいて、バタバタと狼を追いかけていく何人もの足音が、娘のいるところから遠ざかっていった。
――どうか、バルが無事に逃げられますように。
娘は、そう願わずにはいられなかった。
『皆さん!静粛に願います』
青いカーテンの向こうから、司会の男の焦った声が聞こえてくる。
客の皆はざわつき、狼の鳴き声に怯え、帰ろうと席を立つ者まで出始めた。
そう聞いてくるバルのブラウンの瞳が、徐々に金色に変わりつつあった。
「わからないんです。何も・・・ただ、街を歩いていたことは覚えてるんですけど。気が付いたらこの人達に捕まってて」
「そうか・・・食い物のお礼に一緒に逃がしてやりたいが、生憎、この警備の厳しさでは自分の身を守るのが精いっぱいだ。すまないな」
バルは申し訳なさそうに言うと、金色の瞳をギラリと輝かせながら体を蹲らせた。
部屋の中では黒服の男が娘たちの前を通り過ぎ、次の出番の者を連れていくところだった。
「いいんです。あなただけでも逃げて下さい。私は逃げても、行くところがありませんし・・・」
「そうか、すまんな・・・いい奴のとこに行けるといいな。俺が無事にここを出られて、お前が無事でいることが分かれば、いつか必ず恩を返しに行く」
バルは呟くように言うと、四つん這いになった。
床についた手の指が見る間に狼の脚のようになっていき、鋭い爪がにょきにょきと伸び、体の方にも毛が生えてきて、やがて狼そのものの風貌になった。
気持よさげに遠吠えをしたあと、娘をもう一度見つめて挨拶するように瞬きを2回し、えんじ色のカーテンに向かって走った。
風のような速さでカーテンを潜り抜け、廊下を疾駆していく。
会場の方では、バルの遠吠えが聞こえたのか、怯えた客たちが騒然としていた。
廊下ではえんじ色のカーテンの側にいた黒服が、逃げていく狼の後ろ姿を見て、呆気にとられていた。
「何だ!?あの狼は!?」
「おいあれ、狼男じゃないのか!?」
「まさか!?あいつ、月が見えなくても変身出来るのか?」
部屋の入口で目を見開いていた黒服の男が、ハッと我に帰りバルが走り去った方に向かって叫んだ。
「おい!狼男が逃げたぞ!!――そいつを逃がすな!」
娘が固唾を飲んでバルの走り去った方を見つめていると、廊下の方で黒服達の叫ぶ声と何かが倒れたような大きな物音が聞こえてきた。
慌てふためいて、バタバタと狼を追いかけていく何人もの足音が、娘のいるところから遠ざかっていった。
――どうか、バルが無事に逃げられますように。
娘は、そう願わずにはいられなかった。
『皆さん!静粛に願います』
青いカーテンの向こうから、司会の男の焦った声が聞こえてくる。
客の皆はざわつき、狼の鳴き声に怯え、帰ろうと席を立つ者まで出始めた。


