魔王に甘いくちづけを【完】

まるで以前からの知り合いのような口ぶりとその風貌にハッとする。

そう、この方は―――


金色がかったブラウンの髪に澄んだブラウンの瞳、無精ひげはないけれど、あの時よりもずっと若く見えるけれど、この顔は覚えてる。

あまりにも印象深くて忘れるはずもないこの方は、あの場所で会った。



―――まさか、こんなところで会うなんて、何の運命のめぐりあわせかしら。

元気そうな姿に安心する。


良かった、無事だったのね。



「・・・バル、なの?」


「あぁ、そうだ。覚えていてくれたか」



少し緊張気味だった表情がふわりと崩れ、細くなったブラウンの瞳が優しく見下ろした。



「バル様、こちらにどうぞ。・・・っと、リリィ、少し手伝って欲しいことがあるんだ。ちょっとこっちに来てくれ」



ジークが椅子を持ってきたのか、バルの体がベッドの横に沈んだ。

リリィはバルとユリアの顔を不思議そうに交互に見たあと、何か言いたげに口をパクパクさせたが、ジークの後について大人しく外に出ていった。


パタン、とドアを閉めた音を確認したあと、バルは口を開いた。



「お前には、もう一度会いたいと思っていたんだ」

「私も、心配していたんです。元気そうで良かったわ」


「変身した俺の脚には誰にも追いつけんからな。これも、お前がくれた飲み物と菓子のおかげだ。アレがなかったら俺は力が出せなかった。本当にありがとう。無事に帰れたのはお前のおかげだ」


「そんな・・・私は何も。あの時、バルのおかげで怖い気持ちが少し薄れたのよ。私こそお礼を言いたいわ。ありがとう、バル」


「・・・リリィは“ユリア”って呼んでいたが・・・もしかして、記憶が戻ったのか?」


「いいえ、まだ、戻っていないんです。名前はラヴルがつけてくれたんです」


「―――――ラヴル・ヴェスタ・・・か。彼があんなところにいたとはな。今もって信じられん」



バルはベッドの上に両肘をつき、組み合わせた手の上に顔を埋めた。

何か考え込むように暫く無言でいたが、そのままの姿勢で声を出した。



「・・こんなことを聞くのは、失礼を承知なんだが、どうしても知りたい。・・・先に謝っておく。すまない―――――――聞いてもいいか」



えっと。聞いてもいいか・・・と言われましても。

なんて答えたらいいのかしら。

声はとても低くてさっきまでと全く違ってる。

とても真剣なのが伝わってくるけど・・・。



黙っているのを肯定と受け取ったのか、バルは、目だけをこちらに向けた。

その瞳が金色に光ってるように見える。