魔王に甘いくちづけを【完】

深い眠りの中で、ユリアは記憶の波の中を漂っていた。

暗くうねる波の上に、浮かんでくるのは、失う直前の一場面―――



――――・・・すべての色が消える暗闇の中。


私は今、鎧を着込んだ背の高い人たちに囲まれている。


この人たちは、何かから私を守ってる。

何が起こってるのか分からない。

ただ、怖い・・・怖くてたまらない。


私は震えていた。


“大丈夫です。我らがお守りいたします。さぁ、お早く。こちらへ”


緊迫感を伴った若く張りのある男の声。


でも、私はその声に従うことが出来ない。

とても怖いのに、震えているのに、守りの手を拒み逆らおうとしてる。

誘導しようと差し出された腕を拒絶して、戻ろうとしている。



危険なのは分かってるの。

でも、戻らなくちゃ。あの方が残ってるもの。



“待って、まだよ―――まだ駄目・・・。あの方を置いてはいけないわ”

“お聞きわけ下さい!我らは命じられております!さぁお早く――――”


有無を言わせぬ迫力をもった厳しい顔つきと声。

この方は、知ってる。騎士団長だわ・・・。

その逞しい腕に抱きかかえられ、引きずられるように連れていかれる。



“どうか大人しくして下さい。怪我をさせたくありません”


暴れる体を力強く抑えられ、長い螺旋階段を下りていく。

遠くから、キン、キン、と金属が打ち合わされるような音が聞こえる。




・・・そんな、どうして私なの?


命じられてるって、一体誰に?


嫌、駄目。


駄目なの・・・私一人逃げられない・・・。


やめて、おねがい。


やめて・・・放して。



放して―――――――・・・







『ユリア、そう怖がるな』



体の内から低い静かな声が聞こえてくる。

ふわ・・とあたたかい空気に包まれ、恐怖心が薄れていく。

もしかして、傍に・・・いるの?


「ラ・・ヴ・ル・・・?」


唇から掠れた小さな声が漏れ出た。



徐々に体の感覚が戻ってくる。



―――・・・ユリアさん・・・ユリアさんっ・・・

聞こえる?大丈夫?ねぇっ起きてっ――――



女の子の声が聞こえる。

誰かが手を握ってくれてる。


とてもあたたかい。



―――・・・ん・・・


何か、長い夢を見ていたような。

全部は思い出せないけれど、とても、怖い夢だった。



「ねぇっ、ユリアさんっ、起きて!」



声と一緒に、手がぎゅぅっと強く握られる。


痛みを感じ、ゆっくりと瞼を開ける。

ぼんやりと、黒い天井と綺麗な赤い髪が映った。