魔王に甘いくちづけを【完】

やっぱり動揺して顔を覆って泣いてしまったリリィの肩を、バルが抱きよせ、大きな掌で背中を優しく摩った。

ジークがその傍らに立ち、リリィの柔らかな赤毛をくしゃりと撫でる。

二人とも恐ろしい魔物に対しては強く、負けない自信があるが、泣く女性と子供にはめっぽう弱い。

内心オロオロしつつも、なんとか泣き止まそうと懸命に努めた。

ぶっきらぼうながらも慰めの言葉をかける。



「俺が必ず、二人とも国に帰してやるから。だから泣くな。リリィ、大丈夫だ」

「そうだ。リリィ、安心しろ。バル様に任せればいい。この方は、この国の偉い方なんだぞ―――」



二人がかりで言葉をかけていると、バタン、と不躾にドアが開けられた。

一瞬の沈黙の後、ハスキーな声が二人に向けられた。


「おいおい・・・ジーク、なんで女を泣かせてんだ。まったく、バル様まで。まさか、貴方様にそんな趣味があったとは・・・」

・・・知らなかったなぁ、とぼそりと付け加え、ザキは肩をすくめて、やれやれ、とわざとらしく首を振った。


片眉を上げてちらりと瞳を配り、二人の様子を窺った。

ザキの言葉と態度に反応し、わたわたと動いている。



「――――っ、いや、ザキ。これは、その様なものではないぞ。断じて、違うぞ」


慌ててリリィの体を放し、バルはうろたえた声を出した。

ジークも「誤解だ。俺が泣かせたわけじゃない」と言いながら慌てた様子で飛び退くようにリリィから離れた。


ザキは、そんなバルとジークを交互に見て「へぇ、そうですか」と呟く。

そのまま俯き、我慢できないとばかりに、クックックと喉の奥で笑った。


「っ、お前・・・分かってて言ったのか」


ジークが悔しげにザキを睨む。

バルも、参ったな、と呟いて頭を掻いた。


「さっきのお返しさ」と声を立てて笑うザキ。


三人のやり取りを見ていたリリィが、ふっと吹き出し、クスクスと笑った。

ザキにからかわれ、二人の大人の男が慌てる様子がなんだかとても可笑しくて、まだ涙は渇いていなかったが、笑いがこみあげてきたのだった。

なんだか心がとてもあったかくなった。

きっと、この人たちは悪い人じゃない。

涙を拭きながら笑うリリィ。


「どうだ、泣いてる女はこうして笑わせるもんさ」


ハスキーな声が自慢げに言う。

が、その直後、いつもの不機嫌そうな口調に戻り、改めてジークに向き直った。



「―――――それよりも、だ。外で寝てる奴らはどうすりゃいいんだよ、ジーク。バケツで水運んで浴びせりゃいいのか?」


俺がやられたみたいに・・・、と不機嫌そうに呟いた。