魔王に甘いくちづけを【完】

最後のひとすくいを口の中に入れた後、綺麗な手がふわりと頬に触れた。

そこには小さなガーゼが一枚貼られている。


「こんなに綺麗な顔なのに、こんなところに怪我をして・・・大丈夫よ。この頬の傷は、痕もなく綺麗に治るわ。だから安心して。でも・・・何があったの?かわいそうに・・・早く治るといいわね。ね、もう少し眠るといいわ。その方が治りが早いもの」





フレアの白い綺麗な手が脇のテーブルの上を片付けている。

その様子をぼんやりと見ていると、さっきの男が部屋に入ってきた。

フレアの腰に手をまわして、ススと抱き寄せているのが見える。

きっと、恋人なのね・・・。

大切そうに包み込む優しげな手を見ていると、ほわんと心が温かくなる。



「どうだ?」

「えぇ、この通り、全部食べてくれたわ」

「そうか、ありがとな。フレアの薬は良く効く。時期に良くなるだろう」

「えぇ、そうね。じゃぁ私、帰るわ。また何かあったら、呼んでね。貴方のためなら、私いつでも駆けつけるから」


2度のリップ音をさせた後、フレアは食器を持って部屋を出ていった。



「お前はもう少し眠れ。そのうち、さっき食べた薬食が効いてくる」



大きな手が伸びてくる。

あたたかいそれは、瞳を閉じさせるように瞼の辺りをスーと撫でた。





~聞けよ 森の声




碧き泉に 緑の風ふく~





優しい歌声が何処からともなく聞こえてくる。


部屋の中からじゃない・・これは窓の外から聞こえてくる。





〜蒼き瑠璃の意思



古の記憶 呼び醒ます〜




綺麗な声・・・誰が歌ってるのかしら・・・。




「これは・・・魔唄だ・・・」


そう呟く男の様子が一変し、慌てたように外へ飛び出していった。


妖しく耳に纏わりつくメロディ。



聞いていると、薬の効能ではない、全く異質のとろんとした眠気がユリアを襲う。


魔唄、魔力を持った韻律。


ユリアの意識は奪われる。


深い、深い夢の中へ―――