魔王に甘いくちづけを【完】

―――とても、静かだわ・・・。

もしかして、まだ夜が明けてないのかしら―――


・・・ん?・・・・重い・・・・

手も足も鉛のように重い・・・どうしてなの?


身動ぎをしようにも、体がまったく動かない。


こんなことは初めて経験で、さらに寝ぼけているので思考が追い付かず、これがどんな状況なのか、さっぱり理解できない。


目を開けてみるが、頭の上まですっぽりと毛布がかぶせられていて、視界はとても暗い。

が、何か目の前にある様な気がする。

瞳を瞬かせ、よく見てみるとなにやら壁のようなものがある。

そっと触れてみると、指先に感じるのはあたたかくて程良い弾力感とタオルのような肌触りの布。

どうやらそれは厚い胸板のようで・・・。




えっ・・・・どうして?


起きぬけの寝ぼけている頭をフルに働かせ、今の状況をなんとか分析してみる。


なんでこうなってるの?


逞しい腕と立派な脚が絡められ、少しの身動ぎも出来ないほどに拘束された体。

確か、昨夜もこんなことがあったっけ・・・。

・・・・・。

ありありと思い出されるのは、昨夜の濃密なひととき。

当然この胸板は他でもないあの方のもので。



「ぁ・・・・・・ラヴル?」



声をかけてみても、動く気配は微塵もない。


今までに数えるほどしか体を重ねていないが、朝まで一緒にベッドの中にいるなんて初めてのこと。

いつも忙しそうなラヴル。目覚めたときはいつも一人で・・・。

目の前の胸にそっと耳を寄せてみる。

トクトクと心臓の鼓動が伝わってくる。


あたたかい腕の中。

重くて苦しいけれど、ちっとも嫌じゃない。


こうしていると胸の内に閉じ込めている想いが溢れてくる。



息もできないほどに抱き締める腕。

繰り返し囁かれる言葉。


“ユリアは私のモノだ”



ラヴル・・・あなたにとって、私は、何・・・?


一時の気まぐれのお相手なの?


どうして私を買ったの?




“私の可愛いレディはユリアだけだ”




ラヴル・・・あなたはそう言うけれど・・・。


私はあなたを信じてもいいの・・・?



私は、あなたを好きになるのが、怖い。


認めるのが、怖い。







体を覆っていた圧迫感がフッと消えた。

脚がどけられ、腕が離れていく。

代わりに大きな手が頬を触り、そのまま移動して髪を梳き始めた。

その優しい指遣いにぞくっとして体がぴくんと震えてしまった。

それに気付いたラヴルがぼそっと呟く。




「ユリア、起きたか・・・」