魔王に甘いくちづけを【完】

そして夜は明け、ここはユリアの住むルミナの街。

水面から太陽が昇りきり、眩しいほどに煌く光を反射させる。

日に弱い魔物たちが寝床に入り眠りに着く頃。

いつも通りなら、ユリアが目覚め、のろのろと着替え出す時間。

外は雲一つない青空が広がり、水面を通った爽やかな風が庭に吹き込む。

荒れた庭は昨夜の内に片付けられ、ユリアが心を痛めることは、もうない。

昨日までの殺伐とした空気が消え、平和な風景のルミナの屋敷。



カーテンがピッチリと閉められた、ユリアの部屋の中。

その中の大きめのベッドの際で、囁くような小さな声で言い争うラヴルとナーダがいる。

二人とも違う意味でベッドの中を気にしている。




「ナーダ、まだ部屋に入って来るな。ユリアがまだ眠っている。ツバキにも、待て、と伝えろ」



ベッドの上で肩肘をついて体を起こすラヴル。

眠る前に軽く羽織ったバスローブがはだけ、逞しい胸が露わになっている。

傍には昨夜の激しい所業で心地よくすやすやと眠り続けるユリアがいる。

大きな手が頬にかかる髪を払い、毛布を丁寧に被せなおす。

まだまだ眠らせておきたい。



「ですが、ラヴル様。ユリア様には起きて頂いて、きちんとお食事をして頂かないとなりません」



小さな声だが毅然とした口調で話すナーダに対し、不機嫌さを隠さず声に乗せるラヴル。



「・・・・ナーダ。分かっている。私が起こす。食事は私が用意するからそこに置いておけ」


「ですが、ラヴル様にそんなことはさせられません」

「いいから、もう邪魔をするな。分からんのか、不粋と言うものだ。呼ぶまで部屋に入ることは許さん」



瞳が赤く染まり始めたのを見てとり、ナーダは開きかけた口を噤み、静かに頭を下げ部屋から出ていった。


再びユリアの隣に体を沈めるラヴル。

しっかりと体を抱き寄せ、頭の下に腕を滑り込ませた。


もちろん、起こす気などさらさらない。

今日はカルティスが来るまでここにいるつもりだ。


腕の中ですやすやと眠る姿はとても愛らしい。


額、頬、肩と、順番にキスを落とす。

肩には印が残るよう強く何度も口づける。


白い肌に赤い刻印が花弁のように舞う。

私の、モノだ――――




寝顔を見ていると、昨夜起きたことがふと頭をかすめた。

詳細に思い出してしまい、漆黒の瞳が燃えるように赤く染まる。


―――パシッ・・・


部屋の中に響く小さな破裂音。

一番奥の壁のガラス製のランプシェードが割れた音。

抑えきれない激情に支配され、自然と力を放出してしまう。


ユリアは誰にも渡さない。

例え誰であろうと。

例えそれが、歴代最強の王であったとしても―――――・・・・